ネットより経験

『ネットバカ』(青土社刊)によると、ある同じ小説を読むにあたり、ディスプレイに表示されたハイパーテキストリンク付きの文章で読んだ人と、紙に印刷された普通の本の形式で読んだ人とでは、物語の理解度において著しい差がみられたそうです。

読者の皆さんは、ネットと紙、人間の理解度はどちらが発揮されたとお考えでしょうか?
答えは、紙です。
ネットの場合、ディスプレイ上のあらゆるところにハイパーリンクが張られ、脳はいつも注意散漫状態になります。そのリンク先を読みさえすれば、問題が解決するわけですから、一見効率よく内容を脳のインプットできるかと思うわけです。しかし、人間の脳はそんな小器用には出来ておりません。
紙に印刷された文字をゴリゴリ読み進むほうが、断然コンテクストに集中できるのです。
皆さんもネットをダラ見したあと、いったい自分はその時間、何を読んだのか(あるいは何を読まなかったのか)、一日くらい経って思い出すことは出来ますか。私は出来ないし、ほとんどの方も同じでしょう。人間の脳の重さ、体積は、1万年くらい前から変わっていないですから、この20年ほどで出てきたインターネットがいくら、情報を伝えるのに優れているからといって、それが人間の脳みそに必ずしもプラスに作用するとは限らないのです。それどころか、近年はマイナスの影響の証拠が次々見つかっています。
この地球の、それもラッキーなことにまあまあ他の地域よりも恵まれている、平和で豊かな先進国日本で生活しているのですから、社会に少しでも関与し、経験からすばらしい満足感を得るチャレンジをしてみてはいかがでしょうか?
たとえば──。
ALT-FETISH.comの昔からの友人がこの週末、自宅のある地方都市から電車で数十分乗り継いで、渋谷のセンター街にたったひとりやって来ました。彼はそれまでの人生で、めったに、というか一度も街を歩いていて、若い女性から声をかけられることなどありませんでした。しかしこの日は違いました。キレイに着飾って渋谷の街を楽しんでいる女性たちが、次々と彼に声をかけてきます。そして親しげに寄ってきて、一緒に写真を撮っていくのです。いったい彼はどんなことをしていたと思いますか。
ラバーキャットスーツに、ラバーマスクをかぶっていたのです!
街はハロウィーンの装いの女性たちもちらほら。非日常な服装を楽しめる、秋晴れに恵まれた、それはそれは特別な休日なのでした。そこへ、みたこともないような仮装の巧者が目にとまります。あ、あの彼とスマホで一緒に写ってフェイスブックにアップしなければ、というSNS本能が彼女たちにスイッチを入れます。あんな変な、しかし手間とカネがかかった根性入った格好のキャラなら、目立つことは間違いない。イイねボタンがいくつ押されるかと思うと、いてもたってもいられません。
そうしたわけで渋谷で彼は、瞬く間にネット上を駆け巡るビットのひとつになったのです。
いわば彼はラバースーツを着て渋谷に行くことで、社会と繋がっていたいという若い女性たちのネットワークにログインすることに成功したのです。彼も、そして彼に声をかけたたくさんの女性たちも、この週末のことは忘れないでしょう。家でネットを見ている膨大な時間をも凌駕する、濃い長期記憶の「所与」が共有された瞬間の連続がありました。
昔だったら、そう、スマホ+SNSが普及する前なら、もしかしたら彼は無視されていたかもしれません。若い女性たちがスマホでつねにSNSに繋がるようになった今の時代だからこそ、彼は「歓迎」されました。歓迎というよりもむしろ、街の女性たち、目に見えないソーシャルなネットワークの、つねにネタを探し続ける若い欲望に、待望されていたといってもいいでしょう。彼は、この週末、ジャーナリストになった凡百のスマホユーザーにとって渋谷で待望されていたまさにネタ、事件だったのです。
※営業のお知らせ(2013.10.28版)
1.現在だいぶ品切が多いのですが、来月初めから終わりにかけてかなり解消されます。2.SALOを引き継いで、SALOのキャットスーツ(メンズ・レディース)を製造販売する体制を整えました。まだウェブで注文できませんが、ALT-FETISH.comの小金井のショールームにおいでいただければご商談可能です。ぜひ来てね!! 価格とサイズチャートを希望者の方にPDFで送ります。