労働フェティッシュ

amazon

同じネット通販事業者としてAmazonの動向をいつも気にかけています。Amazonは巨大な倉庫に、大量の商品を陳列し、廉価で使い捨ての、社会保険も無しの労働者に端末を持たせてピッキングしています。在庫があるということはその商品が完全にコモディティー化している、ありふれていて、どこでも手に入る。購入者の意志決定は、価格か、スピード(納期)ということになるでしょう。
巨大倉庫内で働く人たちに遅刻のようなシステム想定外のミスは許されません。遅刻は記録され、ポイントが一定の数まで減ずればクビになります。倉庫内の労働環境は劣悪とはいわないまでも、非人間的で快適ではありません。夏は非常に暑く、会社は倉庫の外に救急車と医師を待機させています(休憩を増やしたり、水分補給をするといったことではなく、ダメになったら取り替える発想なのです)。冬は非常に寒いのはいうまでもないのですが、端末が示す、次にピックアップする商品の位置までの許容時間が秒単位で表示されるので、走らないとならず、すぐに汗だくになります。そして、極端に乾燥しているため、スチール製の棚に触れると、日常生活ではおよそ未体験の静電気が容赦なく労働者を痺れさせます。まともな神経の持ち主であればすぐに辞めてしまうのでしょうけれども、辞めても、仕事を求める労働者が列をなして待っているので会社は何とも思いません。訴訟のリスクにおびえながら、限られた少数のジャーナリストがたびたびこの巨大企業の倉庫に潜入し、文章で告発しているのは、この企業が、従業員として関わった人間の暮らしや尊厳を破壊するシステムであるという疑いようのない事実です。
この宇宙が、世界が、黒か白かの二択に収斂していくプロセスであるならば、Amazonみたいな哲学が世界を覆うことに異論の余地はありません。しかし、残念ながら世界はそのようには出来ていないのです。宇宙が、137億年前のビッグバンから始まって今もってなお、拡散・膨張を続けていることからも明らかなように、世界もまた複雑さの一途をたどっています。
ALT-FETISH.comも倉庫のようなショールームに商品があって、そこに、端末が示す商品をピックアップし、梱包発送するという仕事がメインという点ではAmazonと変わりありません。しかし、すぐに品切になる。棚は秒数を問われるほど離れていない。走れるほど広くなく、エアコンは完備されている。品切が多いので、そもそも棚に行く頻度も少ない。このようなかんじで、合理的に考えるとAmazonとは似ても似つかないグダグダなダメ小売り事業者です。
しかし、Amazonよりも優れているというか、誇れることがあります。それは、私らALT-FETISH.comは従業員を使い捨てにしません。従業員=事業創始者だからです。そして、経営者は現場で、この13年間、創業当時とおなじことを繰り返しています。発注して、検品して、受注処理をして、ピッキングして、発送する。変わったことといったら、取引先が増えたりした程度でしょう。
13年間、誰にも注目されることなく、ひたすら同じことを続けられる環境を持つこと。仕事は暮らしのためであって、暮らしを破壊するようなものであってはならないでしょう。