外貨証拠金取引で損する人得する人

 知床岬の先っちょに、夏、ひとりで数ヶ月も過ごすばあさんがいる。電気もガスも水道もない海辺の掘っ立て小屋にたったひとり、自給自足の生活だ。水は沢を流れる川から、食べ物は持ち込んだ米や魚を拾って焼いて食べる。仕事はコンブ拾い。浜に打ち寄せるコンブを乾かして取っておき、夏の終わりに街へ持って行って売ると収入になる。ある日たくさん打ち上げたコンブを乾かしはじめると雨が降ってきた。雨に濡れると、コンブは色が変わって売り物にならない。4時間かけて拾い集めたコンブは台無しになった。そこで言う言葉が秀逸だ。「コンブ拾いなんてこんなもの。うまくいくときもあればそうでないときもある。焦ってやっても後悔する。なるようにしかならないんだから、ゆっくりやればいい」たしかそんな主旨のことを言っていた。人間は徒労に終わる活動に直面したときに、その本性が現れると私はそう思ってて、それを社名にしてみたり。それはいいや。ばあさんのこの言葉、まさに虚しいあの証拠金取引にも通用するある種の本質を突いている。
 さて、昨日の続き。コンブ拾いのような孤独で徒労感に満ちた所業、そう、例の外国為替証拠金取引の話題である。昨日よりやや冷静になった。すると見えてきたことがあるので報告したい。
 冷静にこの一週間の取引を振り返ってみるとある法則、それも極めて明確なものが浮かび上がってきた。それは、「私が」(あくまで私の場合ですから)チャートを見てトレードしたときに、損をしたのはいずれも短期のチャートをみながら売買をしたときであった。得したのは長期のチャートを見て売買した場合だった。短期チャートは分足、長期チャートは月・週・日足だ。
 まとめるとこう。
(損したトレードのすべて)=(短期チャートをきっかけに売買)
(得したトレードのすべて)=(長期チャートをきっかけに売買)
 チャートを見ずに、いったんポジションを取ったら損切りと利食いのオーダーを差していてあとはパソコンを見なければいいだけの話。2~3日後には大勢が判明しているだろう。短期チャートを見なければ投資はうまくいく(とここではとりあえず言っておこう)。
 ところが問題がある。私にとって、チャート、とりわけポジションを持っているあいだの短期のチャートを見るなというのは蛇の生殺しに等しい。なぜなら、自分が乗っかっているトレンド。トレンドは一定方向へしばらく続くと言われている。トレンドの強さは月足>週足>日足の順である。それは分かっている。簡単だ。月、週、日で上昇トレンドなら買いではいるだけのこと。ところが、トレンドにはひとつ重大な欠陥がある。それは、そのトレンドがいつ終わるか(いつまで続くか)まったく分からない点だ。せっかくトレンドに乗っかっても、買った直後に月、週、日でトレンドがたちまち転換し、暴落が始まるかもしれないのだ! その暴落が起こっているのかいないのか。転換が始まっているのかいないのか。これを見るなったって、そりゃ無理というもの。重度のブーツフェチの私にブーツ美女を見るなというようなもの。で、当然見る(ブーツも、短期チャートも)。動揺して短期チャートで売買し、たちまち損する。トレンド神話の崩壊だ。トレンド投資法をぶち壊したのはほかでもない、人間存在の本質に根ざす欲望の仕業だったのだ。
 まあ、別に気にならない人は問題ないからいいんだけど、ここでは私のように臆病な、ポジション持ったら見ずにはいられない場合の話。とにかく、私に見るなというのなら、私にポジション中に短期チャートを見ずに済むほどの鉄壁の意思を期待するのなら、おそらく今頃私はもっとレベルの高い大学を卒業して思春期になりたいと思っていた私の夢の職業、そう、精神科医として大成しているに違いない(強い意志力があれば計画を持って勉強し国家試験などに受かるだろう)。ところがそうはなっていない、つまり、短期チャートの誘惑に勝てるだけの意志はないということなのだ。
 この時点で資格は失った。投資に勝てる資格は。というわけで、昨日と同じ結論がふたたび登場する。すべての資金を引き揚げ、私は相場から足を洗うことにする。
 冒頭のコンブ拾いのばあさんはこの取引をすればうまくいくだろうか? 私はうまくいくに違いないと確信している。なにしろばあさんには短期チャートを見られる端末はおろか光ファイバーケーブルも電話もない。ヒグマがやってきても微動だにしない図太い神経を持ち合わせている。その勇気があればどんなリスクだって確実に利益にすることができるだろう。
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市川哲也
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