常設ショールーム終了のご案内

1950年代の終わりにアメリカのフォード社が「エドセル」という車を売り出しました。この車は、鳴り物入りで売り出したものの販売不振で大赤字となり、わずか二年で生産中止に追い込まれました。フォード社は、何年も前から実施した緻密なマーケティング調査をもとにこの車を開発したのですが、想定していた顧客が、期待通りの購買欲を持つにはついに至りませんでした。巨額の広告予算、営業予算をつぎ込んだにもかかわらずです。
エドセル開発陣は、購入者層に、当初エリートの白人層を設定しました。彼らは車を買うことによって、自分が他人とは違うエリートだったり、あるいはほかと違うものを知っているというひけらかし欲求の満足感を得られる、だからエドセルは売れると思ったのです。しかし、そうした消費者のありがちな自己満足は、何も車を買わなくてもかんたんに満たすことが出来ます。エドセルよりもはるかに安い、エリート白人層向けの雑誌や、デザイン品質で少しばかり差別化された日用品の買い物体験で十分満たされる──つまり、何百万もする車が、日用雑貨店で売っている数百円の雑誌と競争しなければならない事態を自ら設定してしまったということが彼らにとって盲点でした。
自分たちが、こんな層に向けて、こんな商品を打ち出せば、必ず消費者が付いてきてくれる、気がついてくれる。これが間違いです。そもそも、人間を「層」などというグループにまとめること自体に無理があります。結局、モノやサービスの善し悪しを決めるのは、その作り手、供給側ではなく、消費者なんだというのが、エドセルが残したひとつの教訓です。
ALT-FETISH.comの小金井ショールームもまた、消費者が王者の風格でひとつの結論を出すのに長い時間はかかりませんでした。日本初、ラバーキャットスーツを試着できる店ということで、もちろん、一定の評価はいただき、全国各地からお客様が絶えない状態ではありました。しかし、その数があまりにも少なく、経営的な持続可能性、健全性はかならずしもよくありませんでした。
こんな店があったらいいなという私の誤った思い込み、エドセル開発陣たちと同じ落とし穴に私も陥りました。独りよがりではじめても、世間にいかなるインパクトも与えることはできませんでした。
私はアスペルガー症候群(今は、医学上は自閉症スペクトラム障がい)を軽く患う人間であり、ものごとを情動や共感ではなく、数字やシステム的視点から観察するのが好きです。ですから、このショールームにおいでになったお客様がたと、すばらしいひとときを過ごし、お客様も大満足で帰られたのはまことに結構ですが、そのことよりも、経営的な数字がやばいというのを深刻に受け止めます。このラバーフェティッシュのカテゴリーでは、2009年頃、ちょうどショールームをオープンした頃を頂点に、売上が減り続けています。しかし、日本国内のあらゆる小売業の売上の前年対比割れが続いている昨今、このこと自体、めずらしいことではありません。問題は、ショールームが売上アップに寄与するどころか、何の影響もせず、逆に私の時間が削られてしまうというところです。時間も金も、もっとも効率のよい投資先に投資しなければ(うちの場合は要は商品なんですが)、ビジネスを続けることは出来なくなってしまいます。
場所も最悪でした。ハブとなる新宿から30分以上かかるこの場所に利便性を感じる人は、すべての客の1パーセント未満でした(ゼロではなかった、という意味です)。建物もまた、人々の期待を裏切りました。これだけ不便なところに来たんだから、建物にはなにかしら期待が高まるのも無理はありません。ところが、肝心の建物こそ、もっともひどい。築50年近く経った、倒壊寸前の古アパートで、風がちょっと吹くとグラグラ地震のように揺れます。たった2階で。そして、断熱は一切ないため、光熱費がよけいにかかります。最近では水漏れもありました。いくら家賃が安いとはいえ、それ以外にいいことがひとつもないとしたら、それは店の建物としてもはや資格がないということ以外、評価のしようもありません。
結局、4年間で、およそ100人程度の人がお見えになったと思います。100名のお客様には心から感謝御礼申し上げるとともに、ショールームのサービスを継続できなかったことについて、この場を借りてお詫びして取り消します。こんなショールームでも、中にはたびたび足を運んでくれる方もいらっしゃいました。今は私はひとりひとりのそうしたお客様のお顔を思い浮かべながら、そうした皆様に向けて、この文章を綴っている次第です。
今後は別の場所を借りてもっと利便性のいいところで、イベント形式で定期的にキャットスーツ試着受注会を実施していく所存です。

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