土地フェチ

 近所の戸建てがある日、取り壊し工事が始まる。ほどなくして更地となり、「販売中」と大書きされた看板が立てられる。看板に書いてある不動産会社に、私ならかならず連絡する。
 普通、ここで連絡する人は稀だ。でも私は、必ず近所でそういうことがあれば電話して相場を聞くようにしている。
 今日も販売中の土地が見つかったので連絡先の某T社に電話。場所は中央線沿線、新宿まで30分程度の、駅まで徒歩8分の、広い道路に面した、通勤にも通学にも至便の、文教地区の40/200の、更地所有権、南側日当たり良好の、そんな素敵な土地である。それが「販売中」とあるのを見て、欲しくならないわけがない。
 これだけ広い土地があればどんなに素敵な家が建てられるだろう。趣味で買い集めているたくさんの建築雑誌に掲載されたさまざまな家、それも一流建築家の設計の、が走馬燈のように頭をめぐる。その家での、楽しい暮らし。夢のような毎日。ああ、土地が欲しい。
 というわけで、(ちょっと無理矢理だが)土地フェチの私。値段を聞いて驚いた。土地の広さ、85ツボ(ぎょえー、イヤな予感。広すぎだ)。
 坪単価160万円。
 でた。たたたたたたたた、高い。公示価格よりもずいぶん高い。
 で、電卓登場。でました。総額、13600万円+不動産会社に別途414万円の仲介手数料で、しめていちおくよんせんまんえん。
 ……。
 いなげやで買ってきた78円の「おいしい珈琲」(メグミルク)の紙パックを持つ手に冷たい汗が流れ出る
 イヤー、これこれ。この高揚感。いくらかな?いくらかな?ドキドキ。エーそんなに高いの?ギャー。まさにジェットコースター。
 以下、営業マンに聞いた話。
・取り壊し中も問い合わせ一件あり
・1ヶ月後に3分割して分譲戸建てにして処分
 はあ。85÷3=28ツボ。トホホ。それでも4533万円。上モノもあるから6000万から7000万だ。こんな小さな土地と家にこんな金払ったら絶対不幸だ。土地は広くてナンボ。不動産会社がこうして不幸を量産するんだ。ああ不幸。世の中不幸だらけ。理由は土地をこまかーく切って、不幸サイズにピッタリの大きさに切り裂いて、小さな家にゴミのようなプレハブ戸建てを乗っけて売りさばくからだ。土地付き分譲住宅こそ、日本人のすべての不幸の源であり、すべてである。
 私は、そんな不動産会社からこの土地を救いたい。そして日本の不幸を減らしたい! ああ救いたい救いたい。そのためには金が要る。莫大な金が。幸せを作るための金が。
 まそれはそれ。
 都心ではバブルが起こっている。90年のバブルとは違い、土地の収益をきちんと計算したファンドが買っているという。しかし、なかには採算が取れないほど高くなった土地が回転売買されるなど、早くもババ抜き投資ゲームが勃発しているところもあるらしい。きちんと開発したりビルを建てるキャパシティのない会社は土地を買えなくするなど、行政の規制が必要かもしれない。
 アメリカはどうなんだろう。
 グリーンスパンというFRB議長(すごいね、18年もやってたんだ)が交替することになったらしいが、彼を悪く言う人は経済を住宅投資で支えたなんて言っているらしい。実際一部の住宅地では、アメリカ人の平均年収の3倍以上する住宅もあるという(全米平均は2.2倍)。しかし今年になって住宅バブルに変調が見られるって。たとえばローン破産件数が過去最高になったとか、売り出しの家に買い手がなかなか現れないとか。住宅バブルの終了=アメリカ景気好調の終焉ということでよくない。まずい。カリスマ議長も退任するし。どうなるんだろうアメリカ。
 「おいしい珈琲」もすっかりぬるくなってしまったことだし。ラバー着てオナニーでもするかって、ああ着る場所がないほど狭い我が家だった(泣)。
市川哲也
Alt-fetish.com
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