モティベーションを上げる仕事術「逃避法」

 私は基本的にはこんな格好をしてボーっと過ごしたり、変なことに没頭していたい。
 ところが実際は勤労と納税の義務を遂行するためにあれこれやらなければならないことに時間を使う必要がある。
 仕事とか。家事とか。細かい手続きとか。郵送しなければならない書類の作成および投函とか。ボケ防止のために励む資格取得試験対策の暗記作業とか。
 でもやる気が起こらなくて困ることがある。時間がどんどん過ぎていくが、成果出ず、義務果たせず、「留保」な時が過ぎていく。
 そんなときの強引なワザを今日はみなさんにご紹介したいと思う。みなさんもやる気が起こらないときはあるはずだ。取りかかれば早い、やればできるんだけれど、ああそれは判っているんだけど、最初のイッ挙手が、どうしてもでない、そういうやらねばならないことの不作為に、どう対処するか。
 不作為(やるべきこととかやると期待されていることやら、動作一般を、しないこと)の特効薬はモティベーションの向上である。モティベーション、すなわちやる気が出れば、不作為は一掃できる。
 やる気を出す画期的な方法、それは、私が名付けるところの、「逃避法」だ!
 よく、やるべきことがある人は、やるべきリストを紙に書き出して優先順位を付けて重要度の高いものからやってみろという。また、非常に長期にわたる大プロジェクトのような仕事に最初に取りかかるときは、そのプロジェクトの巨大さのあまりやる気が起こらないものだが、プロジェクトを可能な限り細かい仕事に分けてこなせばできるという。
 しかし私の提唱する逃避法ではそんな面倒くさい複雑なプロセスは不要だ。
 逃避法は、学生時代に試験前に、部屋の整理や掃除が、試験前になると異様にはかどることに注目して編み出された。
 試験勉強(ジョブA)がイヤだから、掃除整頓(ジョブB)に逃避してしまう、そういう人は少なくないはず。もちろん、掃除ではなくマンガ(とかゲーム)に逃避した人もいるかも知れないが、漫画(ゲーム)が身近にあったことが残念でしたという感じである。
 試験前の掃除はなんだか後ろめたい。ところが勉強も掃除も、じつはやらねばならないことであることに変わりはない。やればそれなりの成果が得られる。だったら、やればいいじゃん。そのほうが精神安定上健康だし、掃除をしてリフレッシュすれば試験勉強だってはかどる。親だってきれいに部屋を掃除しているのを不快には思わないだろう。
 社会人の仕事に応用する逃避法は、試験勉強をたとえば数日後のプレゼンの資料作成、掃除を交通費の明細書書きといった感じにする。で、どうするかというと、プレゼン準備をしていて、飽きたら精算書書き、そしてまた飽きたらプレゼン準備と、次々に、相互のジョブへ逃避する。
 こうした伝統的な「仕事術」とはちょっと違う私の提案する「逃避法」とは、優先順位は振らず、やるべきことをいくつも並行して持って、あれをやったかと思えばこれをやる、みたいにあらゆるやるべきことを同列に扱い、サッサッと飽きるにしたがって、別のやるべきことに取りかかる方法である。飽きたら別のことに取りかかるところが、「優先順位法」とか、「細分法」と違う。何しろ、一度Aという仕事に取りかかっても、終わろうが終わるまいがBという別の仕事に取りかかってしまうんだからもう、端から見ると私は、無秩序で、アホで、落ち着きのない、他動性衝動のような、教室内をうろつく小学生のような、そういう感じである。
 このやり方のいいところは、「やる気」がつねにリフレッシュされて持続する点だ。
 ただ注意しないといけないのは、逃避先にレジャーとか娯楽、単なる休憩を入れるとダメと言うこと。そういうのを入れると、生産的逃避の連鎖が崩れ、二度と生産性の高いジョブへ戻れなくなる。そんなの逃避にならないと思っちゃうから。
 生産的逃避先は、自分でも多少は楽しめたり、あるいは意義のあることを、できるだけたくさん用意する。用意するというのは、ちょこっとずつ取りかかっておくという意味。プレゼン作成なら、パソコンを立ち上げてワードを立ち上げてファイル名を付けてとりあえず保存する。白紙でいいから。英語の勉強なら教材を開いておく。幸い、世の中には仕事上でも、また仕事に役立つ勉強のネタでも、あらゆる「逃避先」であふれかえっている。
 ボッーッとしたら何も終わらないけれども、何でもいいから、ちょっとずつかじっていけばいつかは終わる、そういうようなもんです。もう一個、注意して欲しいが、緊張感があまりない方法なので、ミスが起こりやすい。これは注意したほうがいい。もっとも、ミスが起こってもいいからとにかくこなす拙速主義が必要なジョブもあるだろうから、必要に応じて。
 私のような、集中力の欠けた人にまさにふさわしい、そういうやり方のご紹介であった。
Text by Tetsuya Ichikawa
Alt-fetish.com