ラバーの身体感覚

 家族や知人に筆者のラバー狂いがばれると、100%引かれてしまう。引く、というのは、気味悪がってゾッとされるといった意味である。もっと言えば、もうこれ以上は関わりたくないとばかりに心理的にも物理的にも距離を置かれてしまう状況である。
 もう、どれくらいの人に、どれくらい昔から、引かれてきたか分からなくなってしまった。さーっと波が引くように、筆者のまわりから人気がなくなって久しい。
 残ったのはただただ居心地がいい「孤独」である。キルケゴールは、キリストに帰依するためには、絶対的な孤独者、単独者にならなければダメだみたいなことを言っていたけれども、筆者もようやくラバーに帰依するための単独者の境地になった模様である。
 今日の話題は、ある俗人(悩める非ラバー人、人は「びと」と読む)が筆者に問うた、次の質問についてである。
俗人「汝は、ラバーを着て、何をするか?」
単独者「オナニーだ」
俗人(露骨に引きながら)「ふーん」
 この俗人は気の毒にもこのあと話題を続けられず、変えてしまった。しかし筆者の心には、「ラバーを着て何をするのか」という問いが抜き去りがたい棘のごとく残ったのである。
 まず第一に、「オナニー」という答えは、的を得ていない。それは、人生とはなにか?という問いに対してこたえるときと同じような程度の意味しかない。つまり自己満足である。
 そもそもよく、ある条件が整った場合にどうするのみたいなことを訊く人がいるけれども、じつはその問い自体無意味な気がする。大学を出たらどうするの?とか、会社を辞めたらどうするの?とか、そういう質問と同じで、訊かれたほうは答えようがないのである。
 信号が赤になったら、どうするの?という問いには、もちろん「止まる」と答えられるだろう。それは、問いが問うているのが、ルールについてだから。ルールはあらかじめ明文化され、決まっていることである。答えが別のところで定義づけられている。そういう問いには簡単に答えられる。
 ところが、ラバーを着てどうするの、という質問の答えは、ルールとは無関係だから、答えるのが難しい。むしろ答えようとする頭の運動自体無効になることすらありそうだ。
 ただ一ついえることは、ラバーを着る行為そのものに、すでに答えが内蔵されていると言うことだ。その答えは、ルールのように明文化も、定義付けもされていない、そして言葉によって把握することすら困難なもの、いわば身体が感じるものである。ラバーを着たら身体に任せればいいと思う。
 筆者はじつは縄で縛ったりするのには一切関心がない。日本のSMでは、縄師なる人がいて、女性を縛るプレイが定式化されているようだが、それこそ「縛ってどうするの」みたいな質問をしたくなる。
 あーここで気が付いた。そういう質問をするときって、もはや、その答えなんてどうでもいいときかも知れない。縄で縛ってどうなろうと、知ったこっちゃないけれども、まあ縛る人がいるみたいだから、せっかくだし見聞を広めるために訊いてみようか、程度の心境だろう。
 「ラバーを着てどうするの」と訊いた冒頭の俗人もそうに違いない。そんなのどうでもいいんだけど、場の沈黙とかがあまりにやばいのでまずは訊いてみた、そのくらいなものだろう。
 他人がなんと訊こうが、シカトして、とにかくラバーを着てみる。答えは自分の身体だけが知っている。
 最近の身体からの報告によれば、ラバーを着てしばらくすると、皮膚とラバーのあいだのローションやら、汗などの液体が程良くラバーを人間の舌のような触感にする。ラバーと皮膚のあいだに、間接部などで細かいしわができ、そのすき間に液体が入る。体を動かすと、ラバーがピタピタと皮膚に付いたり剥がれたりする。その感覚は、まさに全身を巨大な舌で舐められているようだ。次第に汗が全身から噴き出ると、今度は身体ごと女性器に入ったような気分になる。
 この感覚を一度知ってしまうと、ラバーキャットスーツを生涯手放すことはできなくなる。残念ながら普通のセックスでこの感覚を再現するのは無理だろう。
Text by Tetsuya Ichikawa
Alt-fetish.com

ラバーの身体感覚” への2件のフィードバック

  1. 先日送っていただいたラバーキャットスーツを休日の早朝から着込んでいます。そろそろ「ラバーと皮膚のあいだに、間接部などで細かいしわができ、そのすき間に液体が入る。体を動かすと、ラバーがピタピタと皮膚に付いたり剥がれたりする」という描写に相応しい状態になってきました。昨晩もラバー着用で逝ってしまった若くはない私に、もう1回放出する余力は残っていません。それこそ「ラバーを着てどうするの?」です。詩心のない私に「巨大な舌」だの「身体ごと女性器に入ったような気分」という境地が実感できるかどうか判りませんが、今はもう股間には手を這わせず、ひたすらゴムの中の身体感覚を楽しみたいと思います。
    これは私にとって2着目のラバーキャットスーツですが、今までのが0.5ミリのオーダーメイド。今回0.6ミリと、僅かな差ですが着用感はかなり違います。必ずしも身体に完全フィットしているわけではありませんが、多少ゴワゴワした感じの厚手の生地にこうして包まれていると、えもいわれぬ安心感が湧いてきます。ただ、胴長の日本人の悲しさゆえ、ヨーロッパの既製品はどうしても股下の圧迫感が否めませんね。一物をチャックに挟まぬよう気をつけねば!

  2. さすがtubeさん。コンマ一ミリの違いにお気づきですな。
    私は0.6ミリのラバーを着るときに、やはり同じように「多少ゴワゴワした感じの厚手の生地にこうして包まれていると、えもいわれぬ安心感が」沸いてくるクチです。普段どうしてもハードに決めたいときは0.6ミリを着ます。0.35ミリだと、薄ので汗やローションといった液体を生地が拾わないんです。つまりピタピタと肌を叩かないということです。

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