水戸黄門と自分を同一視

──団塊世代の旅行願望2006年に退職のピークを迎える団塊の世代。彼らがもっともやってみたいことの第一位が「旅行」だという。
 それを裏付けるかのように、利用者の平均年齢が70代というニッコウトラベルなど、高齢者向けの旅行代理店各社の業績は堅調だ。ジジイが旅をしたいと熱望しているということに筆者は意外感を覚えた。
 しかし、じつはジジイの遠出願望は日本のお家芸であることを思い出した。そのルーツはなんといっても水戸黄門だ。
 旅先で、困った人を助けて礼を言われると「なになに、私は通りすがりの旅の隠居です」と決めゼリフ。そんな隠居の割には、高い問題解決能力、圧倒的なリーダーシップ、深刻な問題あるところに必ず現れて解決する様子は、まさに団塊世代が長年にわたって求め続けてきた理想の「ジジイ」像にほかならない。そうした理想のじじいたちは今では企業に役員として残り、経営側で活躍を続けている。しかし退職旅願望組は、数千万の退職金をもらい、その高い能力を今度は企業以外のフィールドで生かす機会を手にしている。
 そうなると旅に出て通りすがりのジジイとして水戸黄門のように権能を振るうこと(に思いをはせること)は手軽にその機会を試すことができる。
 すなわち世界の名所旧跡を訪れ、「ひかえおろう。健康でここまで立派に人生をつとめあげた我ここにあり。頭が高い」と心中で咆吼(ほうこう)する。手荷物とか面倒くさい手続きはすべて旅行代理店(助さん、角さんなどお供の者)にやってもらう。
 旅に終わりはない。人生は、旅であり、旅は人生だ。またビザールコスチュームを着るひとときもまた、旅なのであり、だとしたら、やはりこれもまた人生だ。
Text by Tetsuya Ichikawa
Alt-fetish.com