JAPAN FETISH BALL出店リポート

 私は今回、あえてこのイベントの前後に「家事」をはさんでみました。私にとって、「家事」(家族の世話を含む)は日常そのものであり、のぼらなければならない死への確実なる階段です。それに対し、イベントはまさに非日常。人間の命の宿命、すなわち死から逃れることができる、大切でかけがえのない逃避の時間なのです。もちろん、家事を「仕事」と言い換えることもできます。むしろそのほうが大勢の人に共感を得られそうです(ただ私の実情が家事だったので)。
 死に近づいている人生の有限を否応なしに痛感させられる日常家事業務をもっぱら耐える毎日のなかで、何もかも忘れてしまえるイベントは救いとなります。イベントは、家事と異なり、何かを目的としているわけではありません。行ってそこで何が起こるかも、分からないし、何時間かかる活動かも、あらかじめ決めていくわけではありません。つまり時間も目的も、もはやイベントにおいては重要なことではありません。時間や目的を忘れて過ごせる機会は、システム化が進んだこの世の中で本当に少ないのです。まさに貴重な機会といわざるを得ません。というわけで、その貴重さを深く味わうために、私はイベントへ出かける直前まで家事をしたのです。
 えーと。長すぎましたね前置きが。
 アジアで最大級の「喫煙・禁煙エリアが設けられたフェティッシュクラブイベント」http://www.tksociety.com/j/ Tokyo Kink Society のジャパン・フェティッシュ・ボールです。当日は天気もまずまず。会場「キリストンカフェ新宿」に着くと長蛇の列。街の雰囲気自体がもともと雑多な新宿とはいえ、それでも浮いてしまうビザールな人たちが入場を待っています。いざ中に入るとたいへん暗いながらも幻想的な「キリストンカフェ」の豪華でエキゾチックなインテリアが目に飛び込んできます。巨大音響と、明滅する光の織りなす空間に身を置けば、あっという間に、先ほどまで精神をしばっていた「時間」「目的」といった日常些末時が消え失せてしまいます。
 周りの人たちのコスチュームがぶっ飛んでいることもとても大事なことです。もし、周りにいる人たちがスーツ姿だったり、綿製のボタンダウンだったりすれば、せっかくの非現実への「逃避行」も難破してしまいます。JFBは厳しいドレスコードチェックが行われますが、イベントの趣旨からいって当然のことです。ちなみに私の格好は、毎度おなじみキャットスーツではなく、ラバーのジーンズとポリスシャツという出で立ち。Torture GardenのNaomiさんに「ラクな格好をしてるー」とお叱りを受けてしまいました。
 今回、JFBのウェブサイトで、「ゲスト」として来場が告知されていたMidoriさんという方。http://www.planetmidori.com/
 彼女との出会いが最大の収穫です。会場前に、緑色のキャットスーツ姿の外国人女性がいるなと思ったら、しばらくしてみたこともないようなエイリアンふうのマスクを被って歩いているので、声をかけました。彼女こそMidoriさんです。私は寡聞にして、彼女のことを事前に知らなかったのですが、一緒にいてくれた知人によると、世界的に著名な「ラバーミストレス」さんとのこと。アメリカで行われる有名なフェティッシュイベントによく現れ、20年以上前からこの世界では有名人だったそうです(この部分については、確実な情報に基づく記述ではありません)。
 私は、彼女のあまりの出で立ち(凝ったラバーキャットスーツにマスク)に、声をかけて、ラバーキャリアを根掘り葉掘り聞き出しましたが、「ラバースーツにハマッたきっかけは?」と訊いたら、「マスクをしていて話しにくいです」といわれてしまいました。たしかに、呼吸と、外を見るための小さな穴以外全部覆っているため、声はほとんど聞こえません。それに、マスクから大量の汗がボタボタとしたたり落ちてきます。彼女が答えるごとに、マスクを私の耳に近づけるので、その動作で汗が私の手や服に降りかかってきます。
 ちょっと、存在自体がまさにディシプリンという感じで、圧巻でした。ちなみに年齢は40代半ばだろうと拝察されます(活動履歴等から)。いったいナニモノなのかは、ウェブサイトを見ていただければ分かります。彼女のウェブサイトの写真だと和服姿が多いのですが、当日はキャットスーツに、映画エイリアンふう、というか、タコ足みたいな足がいっぱい生えたマスクでした。本当にすごい表現者、活動家がいるものだなと。世界は広い!
 もう一人、DEMASKのラバーマスクを被っている人がいたので声をかけたら以前紹介したことのあるMikityさんでした。http://rubbermikity.blogspot.com/
 彼女(男性です)のラバーコスチュームのセレクトが私の趣味に近いのです。写真もとても美しくて、美しいものを作ろうという熱意がとても愛すべき人です。話してみると気さくな、まったく普通のいい若者でした。Mikityさんの写真を見ると私も頑張って「作品」を残さないとなんて思うわけです。
 私のように、もろもろあまりクラブに参集するアーティストやパフォーマーに詳しくない者からすると、薄暗がりのなかで、大音響が響き渡り、手作りのアクセサリーやポストカード、コルセットを売る人もいれば、かなりなプレイルームもあるこの世界では2時間もするとこころと体がきしみを上げ始めます。今回出店者はなんと20店もあったそうで驚きです。場所も広くて、TKSが「アジアで最大級のエキサイティングなフェティッシュボール」だったと総括するのも納得です。踊りたい人、出店ブースをひやかす人、バーカウンターで飲む人、座ってくつろぐ人、プレイルームで盛り上がる人。多様な人々の欲求をジャパンフェティッシュボールはゴクンと飲み込み、夜は更けていきました。
 3時ころ上野雄次氏の「生け花」のライブパフォーマンスがありました。彼のパフォーマンスはフェティッシュ(特にラバーフェチ)とはまったく関係がなく、舞台上で創造と破壊をモチーフに生け花を展開するものだったのですが、その間音楽が止まって、異様な雰囲気となりました。大がかりな部材(金属、草木、花、ビニルラップ)を使ってオブジェを即興で作りますが、それらの部材を落としたり、斧で壊したりととにかく乱暴です。具体的な内容は諸事情がありそうなのでここでは詳しく書けませんが、巨大なオブジェをつり下げようとしたところで、主催者のチャーム氏が舞台に上がって彼をなだめるように肩をぽんぽんと二度ほどたたいた(制止?)のをみてかなり怖くなりました。なんだか妙な異臭(草花の?)もしてきたし。TKSのウェブサイトに掲載されたイベントの総括で、「美しいMidoriさん」の次に名指しで言及されていたのがこの上野氏。「上野雄次氏のショーはショッキングでしたし(いろいろな意味で!)」──私も相当ショッキングでした。
 世界的ビザールアーティストのミドリ氏、投稿者のMikity氏。他にも大勢印象深い人々がいて、充実の一晩となりました。このイベントジャパンフェティッシュボールが、アジアでは有数の規模で行われる定期のイベントだということは間違いないでしょう。年に一度、このイベントに参加するのは、私たちの特権だと思います。こうした幸運な場所が用意されているのを、行かない手はありません。90年初頭の芝浦ゴールドでアズロが開いたパーティーのように、このイベントも伝説になるでしょうか? 伝説の条件は、それが歴史の一部になることつまり、現在進行形ではなくなることなので、それは寂しいですし本望ではありません。ジャパンフェティッシュボールは、これからも、東京のナイトアンダーグラウンドのアラカルトのひとつというポジションを占め続けてほしいものです。
 最後に、今回のイベントが喫煙コーナーが設けられ、それ以外の場所では原則禁煙だったという点に触れたいと思います。その民族のなかで、喫煙率がどのくらいかで、文明の進展度、民度が分かるといいます。こうしたクラブイベントではそうした言説へのアンチということも込められがちで、だいたい煙もうもうなのが「醍醐味」とされてきました。しかし、ジャパンフェティッシュボールが禁煙コーナーを設けたことは、そうした従来型のクラブカルチャーの思想が大きな転換点にあることを示唆していると思います。続くことが大事だと思います。クラブイベントも、そしてそこに参加する人々の健康も。
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文・市川哲也
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