欲求のナゾ――極端な刺激を求める脳のメカニズム

 ラバースーツを着て気持ちよくなるのは分かりますが、中には痛みや苦しさを伴う強い刺激を求める人もいるようです。SMプレイなどを経験した人はそういう人が多いです。ラバースーツを着ているのが通常はSM女王様のビジュアルが多いため、よく、ラバーフェチはSMの一種かと勘違いされますが、まったく別です。
 ただし、何らかの欲求があって、その充足手段でラバー着装が選択されているわけですが、その、満たされるべき欲求は似ているというか、同じだと思っています。ではそれはなんでしょうか?

 最近の脳科学の進歩(特に磁気で脳の様子を定量的に観察できるようになった)のおかげで、人の脳がリラックスしていたり、逆にイライラしていたりしているときに、脳内に何が起こっているか、分かるようになりました。
 まず、ラバーを着たりSMプレイなどで強い拘束状態におかれていたり痛みを感じているとき、体内では自律神経のうち交感神経が優位になり、血中アドレナリン濃度も高まります。
 ただ、この状況では、デフォルトモードネットワークではなく、セントラルエグゼクティブネットワークが優位となっています。セントラルエグゼクティブネットワークが脳内で働いているときは、ある一つのいまここの現実体験のみに注意がフォーカスされています。
 このとき、デフォルトモードネットワーク(通常はボーッとしているときに活性化、なお、セントラルエグゼクティブネットワークとはトレードオフ)は動いていません。通常、ボーッとしている状態(デフォルトモードネットワークが動いている状態)だと人はリラックスして、マインドフルネス瞑想もそうした境地を目指すものとされています。ほとんどの健常・定型発達人の方は、それで十分リラックスして、脳をリフレッシュさせることが出来ます。ところが、ボーッとしていると、意図せず過去のトラウマやPTSD様の症状が出たり、将来への不安が無際限にわき上がってきて、逆に具合が悪くなる人も全体の割合は少ないながら、確かに存在します。まさにそうした人が、SMプレイやラバーフェチになるんだろうと思っています。デフォルトモードネットワーク活性時に、ネガティブな内省ループが止まらなくなる状態が続くと、鬱病や統合失調症を発症することが知られています。
 セントラルエグゼクティブネットワーク優位状態では、こうした不穏な内省ループは生じることはありませんから、もし、デフォルトモードネットワークの状態でぐったり疲れたり不安が高まっていたたまれなくなってしまうラバーフェティッシュ人は、ラバースーツを着てみるのが絶対におすすめです。
 メンタルヘルス上もいいですし、着て脱いだあと、すっきりシャワーを浴びれば、サウナのあとの「調う」(頭がすっきりさえてるのに体はすごくリラックスしている)状態になれることは私の体験上かなりあります。
 何をすれば気持ちがいいのか、どんな欲求が満たされるのか。最初の質問の答えが出ました。それは、「分からない」です。問題は、個々人が持つと信じている「欲求」があるとして、それが満たされていない、気になるということが苦痛になっている。ラバー(やSMプレイなど)なら、その苦痛から気を逸らすことが出来るんだということです。

 暗くして、ラバースーツに身を包めば、圧倒的な皮膚感覚に、すべての注意関心はそこに奪われることになります。ボーッと思念する余地は一ミリもありません。ラバースーツと皮膚の間の隙間もまた、一ミリもありません。隙間なくラバーで全身を、心も、埋め尽くすことによって、思いがけないほどアッサリと簡単に体現されるのです。
 ラバーフェチではないのなら、その対象が酒や、薬物、その他有害な嗜癖になっていたかも知れません。しかしラバーフェチだったらばなんとラッキーなことに、この薄手の、通気性ゼロのぴったりとしたラバー素材を着るだけで、リフレッシュ出来ます。文字通り、身も心も。依存性も「効かなくなる」ということもないのが嬉しいですね!