経済学者の岩井克人氏が朝日新聞紙上で、これからの資本主義と会社の行方を論じていた。その中で、従来は機械や工場といった誰でも金で買えるものに投資さえすれば、一定の利益を上げることができたが、いまはそうではなくなっている。金は新しいものを生み出す優秀な人に投資しなければ、つねに利益を出し続けることはできないという。機械や工場は、一度投資して建設してしまえば、あとは同じものを陳腐化するまで作るだけ。新しいものを生み出すことはできない。それに対し、人なら、いつでも「頭」を使って新しいなにかを生み出すことができるからだ。そしてこの新しいなにかこそ、これからの資本主義のなかで会社が利益を出す源にほかならない。なにか新規のものを作ったとしても、すぐにマネをされてしまい、陳腐化していく。やはり新しいものを作り続けられるかどうか、つまりきっちりそういう人に投資しているのかどうかが、企業存続を左右する時代、というわけだ。
もちろん、デマスクやALT-FETISH.comがいくらマニアックなラバーフェティシズム市場でビジネスをしているからといって、岩井氏が指摘するこうした新しい資本主義の会社の潮流と無縁でいることはできない。なにしろ企業であることに変わりはないから。ALT-FETISH.comはまあ別にしてもデマスクの成功は、デザインと優れた品質にあると思っている。あとは複雑なオプションを正確に受注して納品するまでのオペレーション。これらは、工場や機械の話ではなく、人の手によって成し遂げられる部分である。先の岩井氏の論考によれば、デマスクはまさにこれから生き残ることができる企業といってよいだろう。個人的にも、結局普段、このラバーフェティシストの市川がもっとも愛用しているのは、デマスクのマスクや、ネックコルセット、コルセット、レスピレーターだったりする。ナンバーワンラバーブランド、その地位をデマスクが占めていることに疑いの余地はない。
MARQUIS最新号★1に掲載されている、デマスク創業者のスティーブ=イングリッシュ氏のインタビュー記事をみると、デマスクがオンリーワン&ナンバーワンになれた理由がいくつか、見えてくる。PR面での幸運、不動産投資への決断力、フランチャイズ方式による店舗展開などだ。これらのポイントは、なにもラバービジネスに限らず、ビジネスならばなんにでも応用が利く重要なノウハウである。
そこで今回は、このMARQUIS38のスティーブのインタビュー記事を全訳して掲載することにする。ビジネスマンであれ、学生であれ、読者の得るものは大きいと確信している。
MARQUIS No.38 P36
A look back, a look ahead:DEMASK 全訳(一部適当にしてあります)
デマスクの歴史と展望───スティーブ・イングリッシュインタビュー
「デマスクの創設者スティーブ・イングリッシュは、1990年に私がオーガナイズしたフェティッシュパーティーにゲストとして参加していた。そのころすでに彼はデマスクをアムステルダムに起ちあげていた。彼は、それから数年のあいだ、お気に入りの赤いジャガーにラバーグッズを満載して、ほうぼうを売り歩いていたよ。イベントにしばしばやってきては、夜更けまでウィスキーを何本も飲んで熱く語っていたけど、僕のほうはとうてい朝まで持たなかったな。」(ピーター・ツェルニヒ)
それから、数年で、彼のブランドは劇的な成長を遂げた。いまでは、世界で最大のフェティッシュカンパニーになった。すべてのアイテムは採寸され、既製品としてデザインされている。古典的な方法で仕立てよく作られたフェティッシュファッション、完ぺきなバックルとフックのパネル、究極の色遣いである赤と黒。高品質なデマスクとして世界に知れ渡っている。デマスクの製品は、非常に高度な技術で作られている。それに、耐久性能も高い。コルセットは、縫い目が剥がれたりすることなく、タイトに締め上げることができる。インフラタブルボディ・バッグ、ジャケット、ビザール・マスクは妥協のない非常に複雑なデザインで仕上げられている。デマスクはそれ自体店舗を持たないが、その代わり、世界中にフランチャイズショップを展開している。製作部門はチェコにある。
編集部(サンドラ)は、エッセンで行われたフェティッシュ・エボリューション2006でスティーブ・イングリッシュのインタビュー取材に成功した。
MARQUIS(以下M):デマスクを起ちあげた理由は?
Steve(以下S):ずいぶん前のこと、そうだね、1984年かな。もう20年以上前だね。最初は個人的な興味関心だったんだ。それまで15年ばかり、土木技師として働いていたけど、その仕事には正直、うんざりしていた。いったいこれでなんになるんだって、ね。僕は小さい頃からラバーマニアだったから、よし、それだったらこれをビジネスにしてやろうって思いついた。当時はラバーを接着するという技術はまだ新しく、この方法を人に教えたりしていた。イーストミッドランドのダービーにあるうちのガレージで、仕事を持っていなかった友人たち数人に教えていた。そのころ、ちょうど私がメンターにしていたジョン・サトクリフという、そう、アトムエージの創始者が、亡くなって。彼の足跡を次世代に継承していくこと、それを自分のミッションに決めたんだ。
M:それでビジネスがどんどん大きくなっていきましたね。
S:そう。最初のステップは、1989年のアムステルダムへの移転だね。当初は、地下室を工房にしていたんだけれども、すぐに手狭になった。12人もの人たちがすし詰め状態だった。よくまあやってたと思うよ。
M:デマスクの社史における重要なハイライトを教えて欲しいんですが?
S:最初の頃のハイライトは、作業場を手に入れたことかな。ついに地下室を出ることができたということで、感慨深かった。それからもっと広い作業場を手にして、50人も人を雇うようになった。2000年になると、建物を建て替えないといけなくなっちゃったのをきっかけに、労働コストが安いチェコへ移転することにした。作業場の移転は、すべてのオペレーションを移さないといけないから、そりゃもうなかなかの苦労がある。いまはもうすっかり落ち着いて、以前よりもぜんぜんいい状態になったけれども、引っ越しのさなかはまるでジャグリングだったよ。
外から見た部分では、ユーロパーブの成功は大きかった。Marina親王姫がパーティーにやってきて、世界中のメディアが「ロイヤルがラバーの狂宴に」って大騒ぎに。その後、スーパーボウルで、ジャネットジャクソンの衣装を担当したりもした。
M:すごいプロモーションですよね。
S:まさにそのとおり。翌朝ドアをノックするから開けると、「ニューヨークポスト」の記者が立ってたんだ。一言お願いしますって。その後ワシントンポストも取材に来た。まさに世界に名が知れたのはこの瞬間だった。大成功だ。
M:デマスクといえばクローズ(衣料品)のみならず、長年イベントで有名でしたよね。どうしてイベント事業を辞めてしまったんですか?
S:ユーロパーブ15でやめた。結構前だね。正直、労多くして益なしって感じで。服をメインにしていこうと決めたんだよ。それともう一つ、アムステルダムの市の規制が厳しくなって、この手のパーティー会場を探すのがすごく難しくなったこともある。パーティーが大衆化して、望まざる客とか来るようになったし、死亡事故とかも起こったし。僕はいまは他の人が主宰するパーティーに客として行ってるよ。もちろんオーガナイズしてた頃のストレスとは無縁だ。
M:近年のベストセラーアイテムを教えてください。
S:ベストっていわれても、すごいたくさんのアイテムが売れてるから、難しいな。初期の頃の古いデザインのものでも依然として売れているし。流行の循環で息を吹き返すものもあるから、パターンはみんな取っておいてあるんだ。ベストセラーは、なんといってもキャットスーツ、特に、巨乳タイプのもの(torped tit……魚雷のように巨大な乳房が胸につけられているタイプ、中に空気を入れて膨らませられるものもある)だね。それにコルセット、フード(マスク)、下着、あとはラバーで作ったボンデージ小物とか。
M:従業員は何人くらい?
S:全世界で80人。工場の現業の人も入れて。
M:どの年の店が会社の本拠なんですか?
S:今のところニューヨーク。ちょうど移転したばかりだけれど。いや移転はホントたいへんだった。1週間毎日12時間働いたよ。それから、もちろん、アムスはいうまでもないよね。あと、ミュンヘン、ニュルンベルグ、ドルトムント。数ヶ月前に、スペインの店は閉めた。スペイン人って、あまり変態はいないみたいだね。
M:次はどこに店を出しますか?たとえばパリとか?
S:そうだね。フランチャイズショップをやりたいというオファーはいつでも受け付けているよ。フランチャイズ方式がいちばんいいね。ついこの間もクロアチアのザグレブの店をフランチャイズ契約したよ。うまくいくかは、東ヨーロッパの人たちの懐具合だろうね。うちは価格を、地域によって変えたりしないから。世界中で同じにしないと。ネットでみんなくらべられちゃうからね。
M:デマスクは確かに最大のブランドですが、いまでは新しいブランドがラバーファッションの市場に相次いで参入してきています。競争相手を脅威と思っていますか?
S:うちらはずっとこの市場でビジネスをやってきている。新参者はこれまでもいて、やってきては、また出て行った。数年、やって、そしてまた消えてしまう。彼らの多くは、一人か、せいぜい二人の会社。売上規模が一定のレベルに達すると、よけいなコストがかかってくるでしょう? まず人を雇わないといけない。そうすると、必然的に税金、社会保障といった社会的コストがかかってくる。人を雇わないで、一人二人でやっていられるうちなら、寝室でもできるビジネスだけれど、人を雇うとなればそうはいかない。人を雇わないで済むうちは得られていた利益が吹き飛んでしまって、それで彼らはやめてしまうんだ。
M:そうすると、デマスクの未来は明るいですね?
S:そう、イエス! かつてなくいい感じだよ。特にインターネット★2の恩恵が素晴らしい。リアル店舗からの売り上げと同じくらいをネットで売り上げてるからね。ネットの売上は確かに増えているけど、リアル店舗を凌駕するほどにはなっていない。やっぱり、この手の服のお客は店に出かけて、実際に試着してみたいというのがあるようだ。
M:あなたの個人的なフェティシズムは?
S:ヘビーラバー。基本的には。美しく、薄い黒いラバーで何重にも身体を覆ってしまいたいんだ。マスク、ガスマスク、ピスバッグ、インフレタブル、みんな好きだよ。
M:今後の展望は?
S:フランスに古城を買おうかと思ってる。そこで、ダーティーラバーセックスをして盛り上がるんだよ。すでにフランスじゅうのラバーマニアたちから引き合いが殺到(笑)。
ビジネス面では、店を出したいな。アメリカだと、ロス、サンフランシスコ、ラスベガス、パリ、あと、ロンドンにもう一店舗欲しい。東京も。誰か(よいフランチャイズオーナー希望者を)知らない?
(C)MARQUIS/ALT-FETISH.com
★1 http://www.alt-fetish.com/mag/1481/1481.htm
★2 http://www.demask.com/dynamic/sitemap.asp?Language=en
ALT-FETISH.comはデマスクのすべての商品を現地価格にわずかの手数料でお取り寄せいたします。ぜひ一度、お見積もりをご依頼ください(お見積もりは無料です)。
市川哲也
ALT-FETISH.com
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