夏コミ(8月12~14日に東京・有明のビックサイトで開かれた「コミックマーケット」)には大手のハンバーガーチェーンが会場に出店している。そこで働いている人たちは基本的に「普通の若い兄ちゃん姉ちゃん」。アルバイトでファーストフードを選ぶくらいだから活動的だし、外観もイケメン揃いとまではいかないものの、男女とも今風であることが多い。今風というのは髪型やメークによって演出される外観の美醜の話である。当然ファーストフード店のバイトのほうがオタクよりもオシャレでクールだ。もちろん外観ばかりでなく、内面も会場を埋めつくすヲタクとはそもそも人種が違うのである。
そんな、普通のアルバイトスタッフのひとりが個人のブログに書いた記事は次のようなものだったらしい。「みんな頑張ってバイトしています!まぁお客はみんなオタ」「大量オタ。これがぶぁぁぁぁあっているの。恐い!きもい!」
率直な、正直な感想で別段騒ぐようなものではないと思うが、オタクを客にして商売しているんだからマズイだろうという話だ。
コミケにいくと、ふだんは滅多に見ることがないオタクの人たちのルックスに辟易する。着ている服。髪型、メーク。眼鏡。もう少し何とかならないものか。別にオシャレになれとまではいかないけれども、「自分たちは着る服にはなんの関心もありませんから、残念」みたいな雰囲気がにじみ出ている、オタクのくたびれたファッションは、バイト兄ちゃんから「キモイ」といわれてもやむを得ない程度の工夫の余地が残されていることは否めない。
ところで朝日新聞で、哲学者の梅原猛さんがダニの生態を興味深く紹介していた。メスのダニは交尾をすると枝の上に登って、下をほ乳類動物が通りすぎるのをジッと待つ。ほ乳類動物が来るとすかさずその上に落ち、血を吸って地面に落ちて卵を産んで死ぬという。ダニの機能は、交尾、ほ乳類動物が出す腺を感知するセンサー、枝から落ちる機能、卵を産む機能しかなく、ほかの外界を見る視覚や聴覚、嗅覚はない。ほ乳類動物の出す腺以外は、この世界の一切が捨象されている。梅原さんはこの話をしたあとに、(ホリエモンのような)金儲けのウマイ人というのは、金を感知する能力と、金のあるところにバッと行って取ってくる行動力というふたつの機能しかなく、ほかの世界は一切捨象しているところがまるでダニだと。まさにダニ呼ばわり。
結局先生はホリエモンを気に入らなくてなんとか悪口を言いたかったのだろう。でもさすが。この論評にはホリエモンは一切でてこない。ダニの特徴が書いてあるだけだ。それでも主旨はしっかりと読者に伝わる。ああ、先生は金儲け主義のホリエモンは嫌いなんだなと。ダニ呼ばわりがふさわしいと思ったんだなと。さすが東大の哲学者だけはある。私もこういう文章が書きたい。
それに、ブログを書いたアルバイトスタッフも、オタクがキモイのならば、梅原先生みたいな巧みな文章にすればもう少し事態は違っていたかも知れない。
ダニは嫌いです市川哲也
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