「デザインとは本来、機能のことだよ」と言ったのは、かのアップルの創始者、スティーブ・ジョブス。いま出品しているマスクを企画制作した私としては、非常に胸に突き刺さる言葉というか、重い言葉。
ボンデージマスクは、まずは機能であることは論を待たない。しかしながら、かぶった格好が??では、機能がその役割を成就することができない。その昔、母ちゃんの合皮製の買い物袋に穴を開けてかぶっていた中学生の私がいた(ボンデージプレイのつもり)。しかし縫い目にグリーンのぴらぴら(フリルっぽい飾り)が付いていて、をかしすぎて、そのせいでどうしてもチンポのタチは50%くらいにとどまるのだった。たしかに革っぽい匂いがするし、息苦しくボンデージの雰囲気はあるのだが、デザインがあまりにもひどかった。
今回出品しているものは、袋にくらべればもちろん月とすっぽんなのだが、若い皮革職人との打ち合わせは永遠に続くように思われた。試作するごとに数万円なくなっていく。これは出来上がる前に破産すると思った。
そういうわけで、デザイン的な妥協が最後までできずにいたがためにこのボンデージマスクはお蔵入りとなった。しかし、ボンデージマスクをつくる以上、その機能を最大限に生かすためには、私は、デザイン面で妥協したくなかった。その点で、この「一定の水準には達した」試作品は、あくまで完成品ではない。そこに至る途中のどこかである。
JR中央線・国分寺駅のドトールコーヒーで、広いコンコースを歩いていく人たちをぼんやり眺めやる。BoAとかいう歌手が歌う、清涼飲料水のコマーシャルソングのような曲が静かに流れてくる。私の左隣に座っているのは美容技術という本を一生懸命勉強している美容師の卵で、反対側は、白髪のオッサン。小さな辞書を引きながら、無心になって洋書を読んでいる。私はその真ん中に座り、はたしてこの場所の周囲何メートルまで拡げれば、ひとりのラバーフェティシストがいるのだろうかと思った。3キロくらいか。10キロか。直径10キロの穴の真ん中にラバーフェティシストの私がポツーンと座っている、いい感じの孤独感が湧いてくる。NHKスペシャルとかでよくやる、大地創造のCGで、地球表面にいくつもの隕石が落ち、クレーターをつくる映像が頭をよぎる。隕石ひとつひとつはたがいに大きく離れて落ちる。ラバーフェティシストもそのくらいユニークな、たがいに遠い距離を隔てた存在に違いない。
私の中に潜むラバーキャットへのフェティシズムが、この映画のせいでまた暴れ出した。
※本革製ボンデージマスク出品中。終了は16日(日)夜です。
市川哲也
ALT-FETISH.com
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