一瀬さんという映画プロデューサーがテレビ番組日経スペシャル「ガイアの夜明け」で、日本映画は現場が貧しいからビジネスになっていないといっていた。プロデューサーも報酬は収益の3~4%しかもらえず、ハリウッドの30~40%とは大きく隔たりがあるという。
クリエイティブな産業の現場が貧しい←ビジネスじゃないと一蹴し、ハリウッドで活躍する一瀬さんの言葉は、実際貧しい現場体験のある筆者の胸に響いた。そうなのだ。正にその通りだ。もちろんハリウッドだって厳しい弱肉強食の世界かも知れないが、才能のある人ならそれに見合った報酬を受け取ることができる。日本はそうはいかない。才能があっても報酬はそれに見合うとはいえない。
その代わりになんの才能も技能もない高卒の工員でも、へたに大卒でクリエイティブ産業の見習いなんかになってしまった人より、生活はよほど安定する。昔地味なメーカーで正社員をしたことがあるけれども、そこには、地域の雇用を支えるしっかりとした歴史あるビジネスの仕組みが成り立っていた。つまり、学歴や才能がなくても、そこそこ健康で働ければ採用し、工場内には保育園も作られていて、食堂もあり、社員一丸となって家族主義でやっていくというシステムだ。きちんとした就業規定や福利厚生の恩恵はもちろん、給与も労働に応じて支払われているのである。こうした非クリエイティブ系の産業では、ビジネスがきちんとできているのが日本である(それもまあ最近では揺らいでいるらしいが……)。
私はアホだったので、自分のやりたいことはこんな地味なメーカーにはないっとばかりに退職し、ひどい労働条件(安い、不健康、キツイ、低未来)のクリエイティブ産業へ飛び込んだ。
それがいま思い返してみてどうであったかは書かないが、とにかくエディターとかライターカメラマン、デザイナーといういわゆる「花形」の職業というのはろくでもない低賃金で雑巾のようにこき使われて捨てられるのである。それが、冒頭の一瀬さんは「ビジネスになっていない」という話で、とにかく貧しい現場、その犠牲のうえに、日本のクリエイティブ産業というのは成り立っているのだ。
たしかに、地味なメーカーのサラリーマンよりはよほど刺激に満ちあふれた、愉快な日々を送れていたことは認めよう。しかし私は思う。そろそろ成熟した文明社会。先進国なんだから、愉快でやりたいことをする仕事だからといって、若者から、低賃金と引き替えに時間を奪うのはやめた方がいいんじゃないか。
弟の彼女が有名私大法学部の4年生で今年就職活動中だが、ゴールデンウィークが終わってもいまだ内定がない状態。「やりたいことをやろう」病が発症したらしく、どこかロハス系雑誌の編集部で安いバイトからはじめようなどと言い出した。去年は公務員試験を受けるとか、世界をまたにかけて活躍したいとか言っていたのが、いざ大手メディアや商社、コンサルなど一通り受験してダメ(内定がでない)となるとこれ。得意のやりたいことを仕事にしよう病だ。そういう選択肢の順番からして、すでに弱みを握られているのである。もはや彼女は低賃金で使いたいクリエイティブ産業の経営者の意のままだ(もちろんそうはならないよう忠告するつもりだが)。
こうした経緯(安くていいから私を使って、お願い)で若者がどんどんクリエイティブ産業に入ってくるのだから、あいかわらず現場は貧しいままで当面いくんだろう。まさに悪循環だ。
それを断ち切ってビジネスに転換するには、収益をきちんと関係者に配分するハリウッド型の成功報酬システムをクリエイティブ業界に入れないとダメ。
そうはいってもこの日本である。トヨタ自動車がどうも過去最高の純利益をあげたとかいっているけれども、そんな1兆円も剰余金がでるんだったら社員に分配したらどうなんだと思う。トヨタからしてこれだ。個人個人ではなく、会社、ひいてはその業界という目に見えないものにお金を留保していく社会、それが日本にこびりついた体質といえる。成熟した産業でもそうなんだから、クリエイティブ産業においてはなおさら、個人の待遇は軽視されざるを得ないだろう。
日本社会の悪口になってきたからどんどん脳味噌からアドレナリンがでてきたぞ。
ついでにいうと、国というのも悪いと思う。何が悪いかというと、稼いだ会社、才能ある個人から国が税金でもっていく。国、都道府県、市町村それぞれが儲けにハイエナのようにたかる構図だ。そうしたハイエナどもは自分たちが好きに作った法律でどんどんおいしい汁を吸っている。ホントにもうあきれるばかりだ。国がこれだから企業もダメだし個人もダメなんだ。
とにかくビジネスになっていない。
就職活動に不安を感じた弟が私に訊いてきた。「起業したいが最初に何やればいいか?」
でた。この質問。資格学校なら喜んで答えるだろう。しかし私はそういう質問がでてきた時点で起業はやめたほうがいいといわざるを得ない。起業したい人というのはなにか熱いネタがなきゃダメなのだ。ネタが大事で、ビジネスは二の次なのだ。……あれ?
結局弟には筋トレを勧めることにした。学歴は十分立派。あとは頭でっかちのひ弱人間にせいぜい見られないようにということで。
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