むかし、病気の原因は病原体の身体への侵入であり、治療法はその異物を除去することでのみ治療できると一般に考えられていました。
しかし実際には心の持ちようで体の健康をコントロールすることが今日分かってきています。ハーバード大学のエレン・ランガー先生は心理学の教授ですが、老人ホームで高齢者を対象にある実験をしました。題して「時間の巻き戻し実験」。健康状態が良好な70代の男性8人を対象。彼らにすべてが22年前の1959年を思い起こさせるように調えられた施設で5日間過ごしてもらうことにしたのです。その施設では、部屋に置かれた旧式のラジオからは当時の流行歌を流し、白黒テレビにはエド・サリバンが登場する番組を流しました。本棚も当時の本を並べます。定量データは、実験前後の敏捷性、握力、柔軟性、聴力、視力、記憶力、認知力などです。
施設では、ただ単に昔を思い出すのではなく、精神的に22年前の自分になりきってもらいました。スタッフも、彼らを、実際よりはずっと若い者であるかのように扱い、荷物も自分で運んでもらいました。さらに、被験者には、本当の世界が22年後の今日であることを思い出させるような者や情報はすべてシャットアウトしました。
5日後の変化は驚くべきものでした。
彼らの身体はより柔軟になり、手先も器用になり、姿勢も良くなりました。帰りのバスを待つあいだ、タッチフットボールまで始めるほどでした。さらに、視力も向上していたのです。実験前の写真とあとの写真をくらべても、あとの写真のほうが多くの人が若く見えるといわれました。
「自分は若返った」という思い込みと完璧な舞台装置のなかで過ごした結果、心だけでなく身体もその若さを取り戻したのです。
プラシーボ効果(偽薬が病気の症状を実際に緩和したり治癒する現象)については、まだ理由は解明されていないのですが、今日科学の新しい分野が、その現象の解明に乗り出しています。
ホテルの女性従業員を対象に行った実験もあります。この実験では、日頃の清掃の仕事は、医師が勧めるか、それ以上の運動量を必要とするものだと伝えました。仕事=運動であるという意識で仕事に従事してもらいました。すると、何も告げられていないグループとくらべ、仕事=運動という意識で働いたグループの体重は、明らかに減少し、体脂肪率やヒップとウエストの比率も改善されていました。運動をしているという意識に改めてもらうだけで、身体的な影響が現れたのです。
私たちもフェチで美しくなりたいという思いを強く持っています。ラバー女装の分野、ゲイでもラバーを着るのは、意識に働きかけて、より強い興奮や快感を得られるという思いが、ラバーコスチュームなどの物理的な「ギア」やボンデージダンジョンといった「環境」と相まって、身体が、通常の生殖目的の性行にくらべてはるかに強い快感と興奮を得られるということを経験的に知っています。
フェティシズムは、快楽や興奮をもたらしてくれる偽薬なのかもしれません。