三菱自動車7211の研究その2

 前回つぶれそうだと書いた。しかし1兆円の固定資産を持ち、それと同額程度の有利子負債を抱え、2兆とか3兆売って数百億の経常利益を上げ(ることもあり)、社員は連結で7万人を超える。
時価総額の順位は国内上場企業では131番目の規模である。まさに巨大企業であり、これがつぶれるとなると、単なる私企業の倒産だけではすまされない、例の「神話崩壊」の大きな証左を、歴史に供することになる。
神話とは……。いい学校、いい会社、いい人生という、高度経済成長時代に確固たる地位を築き、いまもってなお不変のエリート神話である。
それは、さわやかなこの人たちの物語を読むと実感できる。彼らは、三菱自動車が今年新卒を採用するにあたり、広報の一環としてウェブサイトに登場した「先輩社員」たちだ。
みな、じつに素晴らしい人たちである。車が好き、仕事が好き、あくまで前向きな成長志向。元気で優秀な、次世代を担う若者ばかりだ。
もちろん、コメントのなかで、固定比率がどうの、負債依存度がどうのなどと、BSを持ち出して云々することに関心のある人はひとりもいない。彼らの純朴な愛社精神、仕事への一途な肯定を読むにつけ、なにをピントの外れたことを言っているんだろうと思うのは、この会社がなにもつぶれそうだから思うことでもなかろう。
人間の数が減る。この先輩の中にもいる女性社員。仕事はいいけれども、子供は? もちろんそれどころではないだろう。その小さな蓄積が出生率の低下につながる。そして新車販売台数の落ち込みが、持っているもの(固定資産)の負担を際だたせる。
大規模なリストラと、三菱グループの後先ない負担によって、この会社はまず間違いなく倒産ということにはならない。負債は棒引き免除、固定資産は売却、人はどんどん減らし、工場は海外へ。日産みたいにドラスティックにやることによって、この会社は世界的な競争力を回復するほかない。
決算内容に関心がなくても、仕事が好きで車が好きな、素晴らしく優秀な若い社員がいる限り、この会社がつぶれるということはきっとあり得ないし、それを許す国でもなかろう。
万が一つぶれるようなことがあれば、国民のメンタリティーへのダメージは計り知れないほど大きく、そしてまた株式市場や円相場もやられるに違いない。
ただ筆者が感心があるのは、まさにいま「どん底」の、この会社が、どのようなドラマを経て、生き延びるのか。これから展開される数々のドラマの一部始終である。
ところで決算内容が極悪なのにすぐつぶれない理由として、問題の最大の原因である借金、この担い手が仲間の三菱グループであること、ダイムラーは追加をしないのであって、現状は維持するといっていること、重い固定資産は工場売却とリストラなどによって、軽くしようと思えば出来ることなどがあげられる(あくまでつぶれないとしたら理由として考えられる予想事項)。一方、つぶれるとしたらこの借金を仲間が裏切って期限の利益を喪失させて引き上げるなどしたら、一巻の終わりだろう。つまりいま、三菱自動車工業は、借金を引き受けている仲間からの電話一本でつぶれることもあるわけで、まさに正念場である。
Text by Tetsuya Ichikawa
Alt-fetish.com