告白すべきかどうか?

 Alt-fetish.comのフェティシズムは厳格に定義されている。それは一言で言うならば身体のラインを浮き立たせるほどピッタリとした黒光りするキャットスーツに代表されるエロティックで挑発的なファッションへのフェティシズムである。
 私たちは男女を問わずこうしたかっこうを着ることを好み、着ているのを見るのを好む。
 ところでこうしたファッションを好む人々のあいだで、メディア視聴の個人史が奇妙な一致を見せていることがAlt-fetish.comが開業以来実施しているアンケート回答ページの回答欄「あなたのフェティシズムに多大な影響を与えたと思われる映画・テレビ番組・雑誌などを教えて下さい。」から明らかになりつつある。
 蓄積されている膨大な回答のなかからひとつ典型的なのをご紹介しよう。須永昌義さん(30代、仮名)のケースだ。「十代の頃は、いわゆる戦隊ヒーロー系が好きでした。話の内容そのものよりも、出演者、特に女性が変身してマスクを被って演じる姿を見て、自分もああなりたいという羨ましさとエロスを同時に感じていました。こういった方面からフェティッシュな世界に目覚める人は意外に多いのではないかと思いますが、いかがでしょう?」
 本人も「いかがでしょう?」と推測しているようにヒーローものの影響でこの世界に入ってくる人がとにかく多いのである。何しろこんなエロビデオのジャンルがあるほどだ(ただしこうしたエロビデオは狙いすぎて拙速で作られているせいか必ずしも私たちの欲望のストライクゾーンに球を投げてこないのが問題だが)。
 このヒーローものへの激しいエロティシズムの視座を持つ選ばれた一部の人間は、本人ですらじつは完全には理由が分からないのだが、ラバーを着たくなる。手軽に疑似ヒーローになれるから、とかそういう理由では少なくともない。性的な満足感を高めようと長年悪戦苦闘した結果たどり着くのがラバーなのである。
 この須永氏の場合は、孤独を感じているかも知れないラバーフェティシストを大いに励ますケースだ。アンケートの次の質問、「どんなプレイをするか」に彼は大胆にもこう書き記した。
「今までラバーは自分ひとりで楽しむ密かな秘密だったのですが、去年の暮れころに婚約を済ませた彼女に思い切って自分がラバーフェチ、特にマスクが好きであることを告白しました。結婚するにあたって自分のラバー愛好をやめることは絶対に出来そうもないし、また隠しとおすこともできそうにありませんでしたから。初めて彼女に自分のラバー愛好を告白し、彼女にバルーンマスクを被せた時は緊張しましたが、結構ストレートに理解と興味をあらわしてくれました。以来、普通のsexからラバーを取り入れたプレイまで幅広く楽しんでおりますが、思い切って告白したのはよかったです。彼女・彼氏や妻にラバー愛好を隠している人たち、勇気を出して告白することをお勧めします。本当に理解しあっている仲であれば、受け入れてくれるはずだし、お互いの世界観も飛躍的に広がります。」
 じつは私も結果としては妻にラバリストであることを「告白」(ほど大それたことではないが、徐々に分からせた)してカミングアウト済みだ。
 妻との関係、互いの結婚観を十分理解していると思えるのならば、告白して一緒に楽しむ方向へもっていくのがいちばんいい。ただし、妻は基本的には他人である。男性を好きになる動機も「ラバーフェチだから」というのはまずあり得ない。男性の側からすると思いもよらないことで自分に惚れているケースが多い。そうしたなかでラバーフェチを告白するのには、唐突でリスキーな行為、という側面もある。
 夫がラバリストだからといって、その結婚をやめるのかどうか、そこを妻がどう判断するのかが問題だ。私は個人的には、ラバリストだからといって結婚をやめる(離婚する)ようでは、早晩その結婚は破たんを迎える、その程度のものだろうと思う。そんな、性的嗜好の一部がやや変わっていることが、関係に大きな影響を及ぼすのならば、そんな関係はもろいと言わざるを得ない。
 もっとも、信心深いカトリック教徒のカップルだとか、そうした思想信条の理由からどうしても受け入れられないケースはあると思う。欧米では特にそうだろう(カミングアウトしてやりまくるケースのほうが圧倒的だと思うが)。
 もちろん結婚に対する価値観なども千差万別である。それだけに、いわない方がいい人もいるだろうし、いった方がいい(受け入れてもらえる素地がある)人もいるはずだ。
 須永氏のケースでは、寛大で好奇心の旺盛な彼女が素晴らしい対応をし、ふたりで盛り上がる様子が見て取れる。じつにラッキーだろう。
 寛大で好奇心旺盛ではないパートナーをお持ちのあなた。もしあなたが彼女に告白したら、スタッフサービスオー人事のあのおなじみの曲が流れるなか電話にとりつく彼女の様子が浮かんでげんなりしていることだろう。
 ラバー同志のカップルというのがいちばん理想だ。絶対そうだ。自分も一度でいいからそういうのになってみたい。そういう意味では私は未だもって童貞といえるかも知れない。ラバープレイ童貞。童貞時代に、異性とのセックスを思って胸を焦がしたわけだが、いま32歳の私はラバープレイへの熱い思いを抱えたまま悶々としている。ラバープレイの相手を見つけるのは、普通の恋人を見つけてセックスするのにくらべるとかなり難易度が高いように思われる。というかほとんど不可能だ、普通は。残りの人生で果たしてかなうのだろうか。
 最後になるが、ここで、結婚相手が幸か不幸かラバリストだった、ノーマルな人へ。カミングアウトされてとまどう必要はまったくない。むしろロリコンとか、もっとほかのやばい趣味じゃないことを祝福すべきだ。ラバーフェティシストはそれ以外の人にくらべるとさすが、先鋭的な趣味をお持ちなだけになにか他人よりも一歩も二歩も抜きんでている能力を持っていることと思う。
 すくなくとも私が知るラバリストの人たちはみなそうだ。すなわちラバリストというのはパートナーとしても申し分のない紳士淑女なのである。
Text by Tetsuya Ichikawa
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