公立学校の式典で、日の丸君が代斉唱のときは教師に起立させることを強制して、リベラルな教職員から集団訴訟を食らっている右寄りでおなじみのわれらが都知事、石原っち。今日は彼がどうしてそんなに保守で日の丸大好きなのか、探ってみました。
文芸春秋の最新号で発表された彼の談話「特攻と日本人」を読むと、彼は中学校くらいのときに敗戦を迎えた。戦時中は、麦畑に潜んでいたらアメリカの空爆を受けて友達が撃たれて障害者になった。わりと低空を飛んでいたから、こっちは子供だということは分かっていたはずなのに、飛行機を操縦していた米兵がおもしろ半分で掃射したことが石原少年の逆鱗に触れた。また終戦後、米兵が歩いて来たのをよけずに堂々としていたらその米兵にぶたれた。
このふたつの体験が、アメリカに対する抜き去りがたい敵意を彼の心に芽生えさせたということで、今日、彼は騒ぎ立てて言う。「アメリカよりは僕たち日本人じゃん、だから日の丸だよ、靖国だよ、特攻隊だよ、都知事だヨ、全員集合!」こうして完全に右寄りになってしまった模様である。
果たして、都知事という、わりと強大な権限を持つ行政庁を務める一自然人が、こんなドリフコントみたいなキャラでいいんだろうか? これじゃまるで、アメリカ嫌いの子供がそのまま大人になって、しかも権力を有している事態である。危ないよ。そういえばこの人、この民主主義国家で選挙で選ばれている。情けないと思った(幸い国政では相手にされないので一地方自治体のトップに甘んじるほかないのは彼がオトナとして政治家たちに評価されていないことの証明でもあり、その点ではまだ救いはある)。
石原のアメリカ嫌いとそれを動機とする右傾化は途上国の内戦の理屈でよく言われる、憎しみの連鎖そのものでまさに稚拙というほかない。アメリカがひどいことをしたから、仕返しをしてやりたい。そのためには、総理はもとより、天皇にも靖国神社に参拝させて、「特攻の精神」を盛り上げ、日本国の失地回復のためにふたたび一丸となって玉砕したい、これが究極の公共事業だ、とかなんとか本音では思っているに違いない。要するに彼は、そういうキャラなのである。
もちろん、華氏911でいみじくもムーアが、イラク戦争に賛成の上院議員に突撃インタビューし、「お宅の息子をイラクにやる気、もちろんありますよね?」と訊いたらみんな無言で去っていったのと同様、石原だって、大好きな息子、お天気おにいさんの良純君を戦争にやるかと訊かれたらどうなのか?
きっと彼は「どんどん行けばいい」とか言いそうで、逆に恐くなってきた。
というのも、石原は、文春の談話では、特攻隊員のなにがいいかって、若くて純粋なところ、青春の美しさとかいっている。彼ら特攻隊員は決して天皇のため、国のために死んだんじゃなく、家族やふるさとの美しさのために死んだと石原は考えている(そんなバカな、命令が来て逆らえずに死んだ、その命令を出した仕組み、システム、そのへんの反省はどこへ?)。そんな純粋さを、僕たち日本人は特攻隊員から学んで、取り戻そうよとでもいいたいのだろうが、実際はそうではなくて、冒頭から繰り返すように、アメリカ人に蹂躙された自分のトラウマを何とかしたいだけだ。その証拠に、談話では、自分は戦争翼賛でも、反戦でもないといっている。じゃあなんだといったら、石原チン太郎自身のもつトラウマの治癒以外にありそうな理由は残っていない。
トラウマってけっこう根が深くその人の人生を左右し続ける。石原は、特攻隊員に飯を作ったある食堂の経営者のおばちゃんに、国民栄誉賞をあげてはどうかと時の宮沢総理に進言したら、一笑に付された。その後の宮沢の挫折についてヤツ(宮沢)には「バチがあたった」などと論評。「バチ」ってあなた。完全に常軌を逸した、変態の言動とでもいうほかない。
そう、トラウマのせいで変態になるんです、ヒトは。私だってそう。いろんなトラウマがあります。石原もトラウマ。ヒトラーもトラウマ。シリアルキラーもトラウマ。へんな、偏ったエネルギーを発散しているヒトはみーんなトラウマ。
ものすごいエネルギーです。
だから、こういう変態が騒ぐ憲法改正、これだけはみんな絶対に反対しようね(ケッまたかと言わないで!)。彼らは憲法なんて見ていやしない。憲法のケの字も知らないし知ろうとしない。何てったって、彼らにとって憲法はだいっ嫌いなアメリカの「押しつけ」だから。
でも、僕たちにとってのアメリカは、決しておもしろ半分に機銃掃射したり、歩いているからと言って少年を殴ったりするようなヒトじゃない。時代は変わりましたよ。少なくとも筆者の知る個人的アメリカ人は、イーオンのティーチャー、ブライアン……僕はキミを忘れない。ファイルを忘れて取りに行こうとしたら、いいよ、いいよと言ってくれたね。拙い英語で話しても、すごくていねいにネタを拾ってくれたよね。愉快で知的な、リベラルなブライアン。(それだけで)大好き、アメリカ、星条旗万歳。
そんな大好きなアメリカの作ってくれた憲法なんだもの、大事にしなきゃねって私は思うわけですよ。トラウマ野郎のこども都知事石原さんとは違ってね。
まともなオトナなら、もう動き出している、いまのこの国のバカげた右傾化に抗うために。
Text by Tetsuya Ichikawa
Alt-fetish.com
“石原都知事、右傾化のワケ” への1件のフィードバック
コメントは停止中です。
アメリカ人は、実際に会ってみると、国民性の違いはあっても実はいい人が多い。韓国人も、日本嫌いの国民性とはいえ、じつは日本人に対しても優しい人が多い。ドイツ人だって、実際に話してみると、以外と日本人に近い感覚を持った、いい奴らがほとんどだった。きっと、イラク人だって信仰深いまじめな人間がいっぱいいるはずだ、というかほとんどだろう。日本人だって、大東亜戦争だとかパールハーバーだとかあったけど、今は、実際フツーの人がほとんどだろうし。国家が侵す間違いが国民に与える影響というのは、外から見たその国の国民の人間性にまで関わる問題になってくるのは恐い話だ。