筆者は住宅フェチでもある。センスのいい建築家と、情熱あふれる施主が力を合わせて建てた住宅は本当に見応えがある。見るだけで生きようという前向きな力すら沸いてくる。
今日(9/5日曜日)テレビ東京でやっていたのはつぎの2つのケースだ。まずひとつは、自動車販売会社に勤めるサラリーマン(年齢は確か40代後半くらい?)。
小田急線沿線のがけの上に10坪未満の超狭小住宅を建てる。1200万円で買った65坪はツボ18万円と激安だが、構造家の分析によると結局家を建てられる建坪は正味10坪程度しかないことが分かる。
なんといっても場所が強烈だ。幅1メートル、傾斜角40度というとんでもない「山道」を上がらないと敷地に着かない。基礎を作るためには山肌を2メートルも掘らないと丈夫な地盤が出ないということでショベルカーを搬入するわけだが、ショベルカーでその坂を掘り崩しながら登る。ウインチで資材を運搬して何とか家が建つ。
完成披露は感動物だ。なんといってもロケが一年を超えている。これだけの長きにわたり一個人の住宅建設の模様をドキュメントするのはそれだけでも見応え十分だ。
また、眺望にあこがれて、こんな悪条件の物件にえいっと千万単位の金をつぎ込む施主も、かっこいいの一言に尽きる。この勇気、思い切りのよさ、こだわり、そして努力(マンションモデルルームからタダで譲ってもらった数百万円分の住宅設備機器を自分たちで取り外すなどすさまじい努力)の甲斐も実り、土地と建物で4千万円代前半くらいで夢が叶った。
4千万というと、マンションだったら陳腐なものしか手に入らない(もちろん場所による)。それくらいのカネを、他人施行の陳腐なマンションに投じるくらいなら、悪条件でも土地を見つけてきてこんな家を建てるほうが筆者はいいと思った。とにかくマンションというのは管理費、管理会社、ほかの住民、地震、いろんな不確定要素を抱え込むことになるので、筆者は嫌いなのである。戸建てなら更地にして売ろうが立て替えをしようが建坪率と容積率さえ守れば何でもやれる。
さて二件目の物件は、海外駐在歴豊富なサラリーマン氏、37歳。奥さんと子供あり。彼が家を建てるのは世田谷の40坪弱の土地。希望は広いリビング、天井の高い、足の伸ばせる風呂、掃除のしやすさ。海外のゴージャスな住宅事情を知っているだけにこだわりが光る。子供がひとりしかいないから、広い子供部屋が確保でき、幸せそうな感じが伝わってくる。建ちあがってみると、希望は見事叶えられ、まぶしいばかりに広くて明るいリビング、天井高3メートルの浴室、広くて清潔感あふれる子供部屋がじつに見事である。
フェティシストのために霞を食べるように生息する筆者から見ると、どんなに安いとはいえやはり土地、建物は高嶺の花。個人的には金持ち父さんみたいに副収入の源泉たる不動産を持ちたいと願うけれども、たぶん私の代では無理だろう。
それはさておき、この手の番組で登場する家でひとつ気になることがある。それは、通常お父さんが一人になれる部屋というのがあまりないということだ。夫婦がともに寝起きする寝室と、リビングがメインのお父さんスペースになる。まあなかには例外的に、リビングの上層部が吹き抜けになっていて、リビングに面したロフト状の空間がお父さんの書斎、というケースもある。開放感一杯の、などというナレーションで紹介されるこのお父さんスペースではとてもじゃないがプライバシーなんてあったものではない。
果たしてお父さんがフェティシストだったらどうするんだろう。できないじゃん。ラバーフェチが日本でもっと増えるためには、やはり住宅への考え方自体を変えないといかんかもしれん。
(本文中に出てきた数字は番組の内容に必ずしも忠実ではありません)
PS MARQUISのビデオ作品を、日本国内で正式にDVDでリリースできる見通しとなりました。お楽しみに。リリース開始時期は何とか年内ということで計画しているので、お待ち下さい。
Text by Tetsuya Ichikawa
Alt-fetish.com