我が輩はウィンドウズPCである。名前はまだない。なぜならショップPCという、主人の要望に応じて街のパソコンパーツ屋さんが組み立ててくれたものだからだ。
さて我が輩の主人というのがちょっと困ったヤツである。このあいだもキーボードにアイスコーヒーをこぼした。ティッシュで拭いたがそのあとキーボードのNのキーを押すとなぜかnhと、押していないhの字が入ってしまう。主人のスケベな性格がこんなところで出てしまったようなのだ。
コーヒー事件の数日後、我が輩は弱々しく「プー」と鳴いてしばらくキーボードからの入力をシカトしてみた。去年の冬に買ってこの家にやってきて以来、クリーンアップもデフラグもしようとしないばかりか、コーヒーまでこぼすスケベな主人に少し思い知らせてやろうと思ったのだ。
主人は聞いたこともないような我が輩のか細い声にひどく狼狽し、あわてた。動揺して電話したのが、我が輩を組み立てたショップである。電話口から懐かしい店主の声が聞こえてきた。
「(プーという)それだけの情報では何とも分かりかねます」
「はあ」
わが愛すべき主人は、ショップの店主に呆れられて説教されているようである。
「ウィンドウズというOSはとても不安定でして、使っているうちにさまざまな事態を引き起こします。またパソコンは精密部品を組み合わせたもので、ハードディスクやマザーボード、CPUなどどこかで不具合があると全体に何らかの影響を及ぼします。暑い、寒いによっておかしくなる、ということもあります。電圧も影響します」
さすが私の生みの親だけあって、私のことをよく分かっているようだ。主人はうなだれてハイ、ハイとうなずくばかりである。
「パソコンは、不安定なままでも、とりあえず製品として市場に出荷されます。ユーザーは、その不安定な状態を何とか安定させようと、研究を重ねて、NECならここがダメ、富士通はこの相性がよくないなどと経験値を積み重ねていくのです。そして最後は、私どものようなショップPCへと行き着くのです。サービスだってメーカーよりはいいです。お近くなんだし、今度お持ちになられてはどうですか?」
「へえー。なるほど。勉強になります」
ああ、こんな主人はイヤだ。店主に、会いたい。
Text by Tetsuya Ichikawa
Alt-fetish.com