JapanFetishBall感想

市川哲也は今年から外部イベントでなるべくみなさんとコミュニケーションを図ろうと、せっせとイベントに出かけています。本稿では、2008/9/20、渋谷キリストンカフェでおこなわれたザ・ゲイトの5周年記念イベント、ジャパンフェティッシュボールの出店リポートをお届けします。
[ 1 ]準備編
 私は事前に出店をリザーブしてあり、スタッフとして入れました。開場10分前の入り口でスーツ姿の男とドレス姿の女のカップルが、どういう格好なら入れるんだとドレスコードの説明を主催者側に求めているのを目撃しました。男のスーツも、女のドレスもそれなりにおしゃれではありましたが、主催者側「たとえば、ラバーとか(の素材の服ならば入れます)」といわれて「あー……。」と絶句していたのが印象的でした。(この日本の)渋谷の道玄坂の週末の夜でも、ドレスコード「ラバー」はそりゃまだまだマニアックということです。
 私は、例によって近くのホテルに投宿し、ホテルでラバーキャットスーツに着替えて、徒歩で円山町を突っ切り、開場入りしました。円山町はご存じの方多いと思いますが、坂が多いのです。ホテルでキャットスーツ姿に着替えた時点で滝汗。ラブホ街を抜ける際の恐怖と登坂であぶら汗。死ぬかと思いました。当日の気温は9月下旬でもぬるっと暖かく、街の人々は全員Tシャツです。とりわけ夜の円山町にいる若者はカジュアル度が高いのです。そういう人たちのなかを、ラバーキャットスーツを着ていることがばれないように、上下にだぼだぼのウェアを着込んで黒づくめです。完全に異様な姿で、なおかつ大きなスーツケースをゴウゴウ響かせながらハアハア歩いているのですから、みんなが私をみます。まあしかし、ひとりでも本日の私の出店を待っている人がいるのかもしれないのだからと、くじけずに歩を進めるほかはありません。
 会場となった渋谷キリストンカフェはこうしたフェティッシュイベントにふさわしい場所です。ヨーロッパの古い教会をモチーフにした凝った内装。ダンジョン、という感じでしょうか。ALT-FETISH.comのブースは、四人がけのソファ席の一区画と、たいへん贅沢にご用意いただきました。ありがとうございます。この場を借りてお礼申し上げます。
 ソファ席に崩れ落ちた私は、さっそく着ていた上下を脱いで、ラバー姿になりました。全裸になるような恥ずかしさです。まわりはまだほかの出店者やスタッフしかいません。目を凝らして見てももちろん、全身ラバーの人なんて、いやしません。イベントのウェブサイト(TKS)を見ると、ドレスコードについては、ゲストはもちろんのこと、スタッフにも厳しく適用される、みたいに書いてあるから私はがんばって、命がけでキャットスーツを着てきたのです。なのに、全身ラバーの人はいないのです。ほかの出店者は、よくあるエナメルふうの「ボンデージ」っぽいコスチュームとか、外科医みたいな手術着(ずるい!)、ちょっとエッチなコスプレっぽいの、ありがちなSMコスチュームですし、スタッフはレザーのパンツに、レザーのベストとかジャケット、女はコルセットであとはヒラヒラ、そういう感じです。
 キャットスーツにデマスクのコルセット、ブーツ、ラバーマスク姿の私は、会場で浮きまくりです。これはもう、完全に自分だけ「気負い」過ぎたと思ったのです。次回から、もっと身体に優しいレザー系の服を用意しようと固く決意しました。とはいえ、これは貴重な宣伝の機会ですし、自己表現のひとつなので、どんどんやりました。
[ 2 ]公共空間で考えるラバーキャットスーツとは?
 会場の雰囲気は、最初のうちからかなり盛り上がっており、大勢の来客がありました。入場者数は、6月のトーチャーガーデンと較べてどうかは目測なので分かりませんが、会場が狭い分、混み合っており、多く感じました。ヨーロッパのSKIN TWOやMARQUISファッションに身を包んだひとたち、欧米で盛り上がっているコスプレ系の外国人も多く見受けられました。みなさんおもいおもいのビザールな格好で、大音量のテクノやロックの音楽に身をまかせて踊っています。日本人ももちろんいますが、やはり従来のSM系のファッション、ボンデージ系が圧倒的に多いです。本来は入場を許されていない、単なる全裸(正確にはパンツ一丁)のメガネの男性とか太ったおなかを突き出すこれまた全裸系の人がちらほらいたのは残念でした。こうした方ももちろん、イベントに来る道理はあります。しかしながら、年に数度のこのイベントのために、高額なコスチュームを揃えてきてやってくるおしゃれな人たちがどう思うか、その点が気になります。イベントは雰囲気がなにより大事ですから、なるべく弊社でもイベント主催者への敬意・協力として、せめて、メガネの人にはコンタクトレンズを、肥満の方にはダイエットを強く推奨していきたい所存です。
 いずれにしましても、ラバーで全身を覆う人は私くらいしか、まあ、いてもあとひとりくらいしかいなかったようです。
 さて、ところで、ここでラバーキャットスーツがヒッジョーにっ、少なかったことについて考えてみましょう。全身ラバーの私が、今回のイベントでやや浮いたことは、大勢の人が参集する公共空間でラバーキャットスーツを着るという行為がはらむ矛盾を象徴しています。ラバーキャットスーツとは、そもそもわたしたちにとって、自分をある種のイマジネーションの主人公に仕立て上げ、その妄想と、ラバー着用によって得られる強度の身体刺激・拘束感覚を用いて性的に興奮するための「道具」に過ぎません。そうした行為はとりもなおさずひとりの閉じた空間、内的空間の中でこそ、おこなわれます。したがって今回のような外部空間で、大勢の人がいる中では、ラバーキャットスーツはもはや本来の意味をなさないのです。ALT-FETISH.comの市川哲也が着ればそりゃ広告になって、商業的にはそれなりに有意義なのですが、来客にラバーキャットスーツが皆無だったのはそういう道理からです。
[ 3 ]超美形有名女装子驚愕のラバーカミングアウト
 深夜3時をまわり、会場の盛り上がりが頂点に達しています。そのころ、ひとりの、髪の長い、スラッとした女性が異様に念入りにうちのフライヤーを見ていることに気がつきました。うちのブースの前から動きません。しばらくして私に話しかけてきました。(フライヤーに記載されているALT-FETISH.comオリジナル写真集シリーズのモデルの募集概要を指して)「これって、男はダメですか?」───うわー、女装子だったのか───「(ダメですっ)いやーそうですね、あなたは興味あるんですか?」なにしろ女装子のほとんどは本当に商品になりづらい顔をしている、という先入観がありますから、勘弁してくれと思いつつ肝心の顔を見たいのですが、顔がよく分かりません。暗くて、小さなマスクを付けているので。
 彼は、モゴモゴいう私に、ラバーにものすごく興味があって、ぜひ、ラバーキャットスーツを着てモデルをやりたいと強く訴えるのです。そこで、ラバーマスクをかぶってもらうことにしました。Rubber’s Finestの編み上げの全頭ラバーマスクをかぶるために、彼がもともと付けていた小さなマスクを取って、素顔が顕れたその瞬間。私は目を見張りました。こいつは、ただ者じゃない。なにかのプロだ───。まさに凍りました。美しい。メークもプロ並みにうまく、フォトショでぼかしフィルタを三回ほどかけたようです(ちなみに私は濃いメークにめっぽうよわい)。歯も真っ白、歯ぐきもきれいにピンク色です(ちなみに私は、きれいなピンク色の歯ぐきにめっぽうよわい)。美しい目元には、念入りに取り付けられた、見たこともないような美しいつけまつげが。全体としては、昔の映画「ネバーエンディングストーリー」に出てきた空飛ぶ細長い恐竜(?)ファルコンのようです。
 ラバーマスクをかぶせる途中で、つけまつげが取れないか冷や冷やしていましたが、彼は、はじめてかぶるラバーに興奮して、夢中でかぶっていきます。顔面で位置を合わせて、バッチリ位置が決まり、これでどうですかとこちらへ眼差しを向けてきました。生まれて初めて、目の前の男にチンポを立てた不肖、市川哲也。そこらヘンの女よりぜんぜん美しい。
 この美しすぎる女装子、なんとロイター通信にも取材されたこともある某有名コンセプトカフェのプロデュースをしたり、モデルをしたりと、たいへんに活躍されている有名な方でした。道理でプロっぽいメークといい。完ぺきに商品になっているわけです。プロのモデルなんだから。
 こうした活躍をされているにもかかわらず、私が熱心にヒアリングしたところ、かれは間違いなく「真性ラバーフェティシスト」であることが確認されたのです。
 私と彼の共通点を、無理矢理ですがラバーフェティシストの主要な特徴として列記しましょう。
 ・異性(同性)との性的行為(セックス)に関心がない
 ・オナニーもあまりしない
 ・思春期から一貫してエロビデオとか、女の裸にまったく関心がない
 ・そのかわりに、黒光りする光沢のあるもの(フェティッシュ)に異様な関心がある
 ・自分が、黒光りする格好をしたい。その姿を見て性的に興奮を覚える
 ・黒光りするピッタリしたフェティッシュなコスチュームに関心があり、着ている人物はどうでもいい(人より物!)
 ・異装癖がある
 これらにくわえて、彼が貴重なのは、その希有に美しいルックスです。私たちは、長年にわたり、本当にラバーフェチの(真性ラバーフェチの)美女を求めてきました。しかしよく考えれば、私たちの対象は美しいコスチュームであって、着ている人物は(そのコスチュームを毀損するほどに醜悪でなければ)まあどうでもよいわけです。つまり、女でなくても、美しければ男でもいい。というわけで、ついに現れました。究極のラバーイコンが。真性ラバーフェチの美少年が!
 本人がほかのジャンルですでに著名なためこれはあまりにもわたしてきに大事件なのでこのブログでは名前を明かせません。しかし、幸いにして、このブログは、彼の名声を損なうほどの読者数をもっていません。もちろん、例のオリジナル写真集シリーズはなおさら少ない。というわけで、彼がラバーデビューを飾っても、彼の活動に何ら、マイナスの影響はないと彼自身言ってくれたこともあり、今度彼のラバー姿のDVD写真集発売が決定しました。女装子には興味ないと思っていた方も、私と同じで、間違いなく考えが変わることでしょう。
 ラバーマスクをかぶった彼は、恍惚として、「すごいいいです。最高です」と、ものすごい満足げです。うれしそうです。私が、「この自分の姿を鏡で見たら興奮しますか」と訊くと、もちろんYESの返事。何度確認してもうれしい、彼のラバー愛の本気度です。
[ 4 ]問われるオジリナリティ
 こうしたイベントでもっともいい意味で目立つには、とりもなおさず「オリジナリティ」が重要です。私がSMについてあまり評価していないのは、それがもはやすっかり定番となり、オリジナリティを見つけるのが非常に困難なカテゴリーだからです。私のラバーキャットスーツ姿も例外ではありません。かろうじてデマスクのコルセットやガントレットなどアクセサリーを着けていたからまだ見れたものの、ラバーキャットスーツだけだったらなんの魅力もありません。
 ここで、当日ブース出店していたところのうち、オリジナリティという視点でキラリと光っていた2店を紹介しましょう。一つは目に付ける近未来のアクセサリーをハンドメイドで作っているCさま。もう一点はおもに革を使ってブラジャーやリストバンド、マスク、コルセットをハンドメイドで作っているiuvantem.comさん。これらショップの特徴は、製品が、ほかにふたつとない「一点物」主義で貫かれているという点です。その点、ALT-FETISH.comのラバーフェティッシュコスチューム業界における「スーパーのダイエー」主義が誤解を生むのは残念なことですが(うちは、ラバーフェチのみなさんに、あくまで適正価格でよいものを安全で気軽に手に入れてもらいたいというのが主張です)。たしかにうちの商品で、オリジナリティを主張するのは困難です。先ほども述べたように、ALT-FETISH.comのラバーのコンセプトは妄想補完ツールであり、ファッションアイテムではないのです。
 イベント会場で、自らの店、つまり「ラバー商品の安売りスーパー」ALT-FETISH.comの商品を着て浮いた私は、自分の「オリジナリティ」不足に気がついて、慌てて、隣に出店していた一点物のレザー小物のiuvantemさんのレザーマスクを買いました。こうして「オリジナリティ」を補った次第です(このマスクがまたいい!)。え?そのマスクをALT-FETISH.comで売れって?無理です、なにしろ私が買った一点物ですから。
 ここまで述べてきたこととちょっと矛盾しますが、思うのは、結局内的なラバーオナニー求道も、外部表現としてのラバービザールファッションも、オジリナリティーには宿命的に拘泥していくという点で、同じではなかろうかということです。ラバーオナニーも、結局、ラバーキャットスーツだけでは自分的に陳腐化してチンコは起たなくなる日が来るのです。販促じゃないですけど、ラバースーツの上に、コルセットを付けたり、ブーツを履いたり、普段とは違うアイテムがどうしても必要になります。これまでにない快感と興奮のためにラバーキャットスーツを超えるオリジナリティーあふれるバリエーションが、いつも私たちには、必要とされるのです。
 今回のイベント参加では、ほかの参加者を観察して、こんなバリエーションがあるんだなと気付かされることも多かったと思います(もっとも私はマーキスを毎号熟読して目が慣れてしまっていて今ひとつでしたが)。そうした意味で、今後も大規模な、ドレスコードの設けられたイベントには命続く限り顔を出そう、そう決意し、朝日を浴びて道ばたに倒れる酔っぱらいたちをよけながら円山町を後にしました。手には行きと同じくらいゴウゴウと音を立てるスーツケース。中には、死ぬほど重い思いをして持っていった特価即売用のマーキスの売れ残りが入っています。持っていった15冊のうち、売れたのはわずかに2冊でした。
[後記]
 イベントでは今回も何名かの方がお声をかけてくださいまして、まことにありがとうございました。人類の歴史がはじまって、1万年あまり。ラッキーなことに、先進国に産まれ、しかも珍しくも変態として同じ世代を生きているわたしたちです。なるべくお会いして、話をしたいと思っています。
 毎回この手のイベントに行くと、必ずひとりかふたり、ALT-FETISH.comを「はじめて」知り、ラバーに開眼する人がいます。ところがそういう人に限ってPCをもっていません(そりゃそうでしょう、PCで、ラバーでググればとっくに見つけられています)。ALT-FETISH.comを知らないお客様は、リアル店舗はどこか訊いてくるのですが、残念ながらありません。携帯ですら、ALT-FETISH.comは利用できないのです。一定のサービス品質を維持するため、間口をひろげられません。ただ、現在、SPLURGE.jpドメインにて、SSL対応の、携帯からも見られるショッピングサイトを準備中です。まだ、ラバー商品の取り扱いはありませんが、より質の高いサービスを提供できるよう、投資をしてまいります。皆様のますますのお引き立てを心よりお願い申し上げます。
 今回、イベントで、事情があってどうしてもPCでネットを見られない人がいました。彼らは、PCを持っていないだけで、私たちと同じくらいラバーへの熱い情熱をもっています。そうした方々がリアル店舗を求める切実な声は、私を揺り動かしました。期間限定でもいいからお店を開けないか、いま考えています。開くとしたら間違いなく吉祥寺でしょう。吉祥寺のヨドバシカメラのとなりの永谷ビル。あそこはテナント料がかなりリーズナブルです。プレスルームとしてもってこいだと目を付けています。まあそれは追い追いということで。
 この夏は例によってあれこれ外部活動をしたため、持病のじんま疹、関節痛など、秋に例年悪化する身体の持病が一気に押し寄せてきました。つらいッス。これだけ言っておきながら、来年までイベント参加はしないでしょう。
市川哲也/ALT-FETISH.com
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