イラクの武装勢力によって誘拐されていた日本人が今日、8日ぶりに解放された。武装勢力は3人は民間人であり、また日本国民が自衛隊派遣をやめるようデモを行ったことを、解放の理由としている。民間人を手厚くもてなすイスラム聖職者協会の方針にしたがったことも解放の理由である。
筆者が今回の事件で日本国政府がどんな役割を果たしたのか(あるいはまるでなんの役にも立たなかったのかも知れない)サッパリ分からないけれども、少なくとも国外へ出国するときに必須のパスポートには次のように書いてある。
「日本国民である本旅券の所持人を通路故障なく旅行させ、かつ、同人に必要な保護扶助を与えられるよう、関係の諸官に要請する。日本国外務大臣」
The minister for foreign affairs of Japan requests all those whom it may concern to allow the bearer, a Japanese national, to pass freely and without hindrance and, in case of need, to afford him or her every possible aid and protection.
問題は、この英文である。これって伊藤の英文解釈教室並に難しい。最初に書いてある「日本国民である……要請する」は日本語は主語がないごく普通の固い日本語だが、これをたぶん無理矢理直訳したんだろうと思われる。
今日は、FPとしてこの、海外旅行者がまず頼りにする唯一の書類、パスポートのこの英文について考えたい。
英文での主語はThe minister of foreign affairs of Japan日本の外務大臣である。動詞はrequests求める、要請する、という他動詞の現在形である。英語の時制には7つだかあるが、ここで現在形を使うのは、こういう法律とか公文書ではよくある話。requestが他動詞であることから、目的語である名詞を探すことにする。すると目的語はall those whom it may concern to allow the bearer, a Japanese nationalこのパスポートを持っている日本国民を受け入れる担当者全員に、というのがわかる。つまりこの文はS+V+Oの第三文型であることが分かる。
ここまでで、大臣は、担当者に要求しているんだなーっと分かる。で、なにを? そのなにを、というのが、非常に重要だと思う。
自衛隊派遣に反対の意を表明する目的で誘拐することを(要請する)、
とか、
自分の宗教理念に基づいて、火あぶりで殺すなどと脅すことを(要請する)、
とかでは、どうやらないようだ。
英文に戻ろう。副詞句としてrequestを修飾しているto pass以下だ。to pass freely and without hindrance and, in case of need, to afford him or her every possible aid and protection.自由に、支障なく通過させることを。また彼ないし彼女(つまりパスポートを持っている日本人)に、もし必要な場合、援助したり保護してあげることを。
以上の解釈によって、この文章は、付記されている日本語のような意味を表していることが理解できる。
しかし筆者が注目しているのは、果たしてこの英文が、彼ら武装勢力の人たちに理解してもらえたのかどうかだ。
というのも、けっこう難しい文章だと思うから。筆者はちなみに、最近受けたTOEICは730点だった。TOEICこのこの水準は、上位2割以内ということなので、大多数の読者にとっては自慢に映るかも知れないが、ここでは私は自慢したいんじゃなくて、それでもこの英文は難しいということを強調したいためにあえて自慢している(って自慢じゃん)。
この英文は、きっと武装グループには意味が分からなかったかも知れない。というのも、この文にはto不定詞をとる他動詞がconcernと、allowと、ふたつあるから。しかもそのあとに、肝心のto不定詞が4つもある。これはけっこうわかりにくいと思う。しかも一文である。カンマでばんばん区切っているし、all those whomなどという難しい関係代名詞も入っている。
というわけで、海外旅行へ行くみなさんには是非、このパスポートに書いてある英文の意味を熟慮した上で、また、日本はいま、自衛隊派遣していて海外旅行はリスクが高くなっていること、この辺をふまえて欲しいと思う。
ところで筆者は、ドイツやフランス、ロシア、中国などほかの超大国がぜんぜん派遣していないのに、派遣される日本の自衛隊って、本当にお気の毒としかいいようがない。もちろん自衛隊のイラク派遣には反対である(劣化ウランなどの放射能汚染がひどいでしょ。それに税金そんな余裕はないはず)。
ドイツ、フランス、ロシア、中国のように、派兵する理由がない、必要がないから、派兵しないというスタンスを貫ける国がうらやましいカギリですなあ。ちなみにこれらの国は、いずれも英語が公用語ではない点において日本と同じである。
あともう一つ、この3人は、危ないところへ行ったのだから自業自得だなどという人もいるけれども、それはまったくの誤りである。というか、そういう考え方は、憲法に反する。取材の自由というのは憲法で保証されているからである。
“人質日本人解放” への1件のフィードバック
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ちょっと本文からは外れるのですが、各国ごとに「命の危険を感じる事柄」が違っていておもしろいです。前に、アフリカ系フランス人の人と話していたら、テロなんてフランス(パリ)じゃ日常茶飯事、ということで、あまりテロに動じていませんでした。スペインや南米でもそうかもしれません。あるメキシコ人は、子供の頃誘拐された、と、当たり前の事のように語ってくれました。アメリカなんかはオクラホマの事件はありましたが、テロと聞くとこの世の終わりのような態度になります。日本でもそうかもしれません。それら多くの人に言わせると、阪神大震災のような事がおこりうる所に住んでいるのは信じられない、恐ろしすぎる、といいます。考えてみれば阪神大震災で亡くなられた方の数はニューヨークの911で亡くなった方の数をはるかに上回るんですよね。テロでも自然災害でも、起こることがある程度予想されるとすれば、求められるのは対処法。それは個人にも政府にもいえることかもしれません。