本のフェティシズム

 筆者の父は猛烈な読書家で、職業は歌人。親(筆者の祖父)がまあそれなりに金持ちだったからできた芸当だが、生涯定職に就くことなく「歌人」で通した。
 唐突に彼が死んで2年経った。筆者がこうしてキーボードに入力しているヨコの本棚をふと見ると彼が20代のときに読んだコリン・ウィルソンの暗黒の祭りだとか、万葉集なんかが置いてあって、いい感じを醸し出している。
 筆者がいるこの部屋は彼が残した1万冊近い蔵書の半分以上を収容する巨大本棚が四方の壁を覆う壮麗な書斎である。そこで日夜、さまざまな本たちからの言葉にならぬインスピレーションをウケながら、こうしてキーボードに向かい続けている。本に囲まれて暮らしたいと願った父の血を引いた筆者は、リフォームで床から天井まで、壁全部を本棚で覆ったこの部屋を特注した。その部屋の居心地は何とも言えずよいものである。
 しかもその部屋で、家族全員が寝静まったあとにラバースーツを着込み、自分との対話をはじめる。それはまるで禅の修行のようである。
 芥川賞が発表され、これまたユニークなモブ・ノリオさんという人が受賞した。昨年の女の子ふたりといい、今年の受賞者といい、やはり作家になるような人は、生まれた境遇からしてそのようにできあがっていた面が少なからずあるだろう。
 残念ながらふぬけで変態気味な筆者、そして筆者と同様怠惰だった父も、作家になることはなく、生涯を終える宿命がみえる。
 もっとも、筆者はまだ生涯は半分も終えていない。だからこうしてかすかな希望を膨大な本に抱かれつつ、フェティシズムの妄想の開発に神経をとぎすましているところである。
 ところで、昨日のブログのタイトルは「エロと妄想」。この文字にひかれて新着でクリックした人が過去最高に達した。
……みんなったら。
Text by Tetsuya Ichikawa
Alt-fetish.com