Alt-fetish.comが締めくくる2004

 今年最後の週、52週だ。個人は末日をもって締めとなるので、税金の申告をする人はひとつの節目になろう。
 さて、今年のAlt-fetish.comを振り返ってみると、5月にBLACKSTYLEのラバーラインナップを取扱開始やDVD発売など例年にまして革新的なイベントがあった。しかし一方で、恒常的に高いユーロのおかげで、Alt-fetish.comの事業採算性は悪化の一途をたどっている。もっともおよそ儲かるような商売ではないからこそ、ほかの荒ぶる資本の参入を受けることなく細々と、ある意味「いい感じ」で続けていけるのである。それに、どんなに収益が悪化しようとも、みなさんのご支援が賜れる限り、これは続けていかねばならない。
 先日クリスマス、筆者は目途もなく続く日常にぐったりと疲れ果てて、チンポなんて触りもしたくなかった。奥さんは寝ていた。エロビデオも観たくないし、オナニーなんてあり得ないと思っていた。ところがである。ふとラバーマスクをかぶってみると驚いた。むくむくと、死んだはずのペニスが根本から津波のように盛り上がってきたのである。
 やはりフェティシズムのパワーは恐るべきものがある。こんなに元気になれるものが、ほかにあるだろうか。変態でよかった、ラバーフェチという奇妙な特性を与えてくれた神様に感謝したい、そんなクリスマスの思い出である。
 NHKの地球大進化というNHKスペシャルを見ていて、結局いろんなイキモノがこの地球上にいる中で、どうして人類だけがほかの種を大きく凌駕してこれほどまでに数が増え、反映したのかをアメリカの大学のある教授がこう結論づけた。その教授は人の頭蓋骨、とりわけノドに注目した。人は、鼻先とノドチンコまでの気道がほかのイキモノにくらべて長いというのである。つまり、そのおかげでいろんな音、すなわち声が出せる。しかもほかの動物のうめき声と違う、繊細でバリエーションに富んだ声である。
 コミュニケーションを通じて、人は知恵を次世代に伝えることが出来る。普通遺伝子だけで進化しようと思ったら限界があって、人の遺伝的進化はもうないと言われる。そうしたなかで、人は遺伝子に代わる進化の手段、「声」を、偶然にも獲得した。
 そのノドの気道の長さが、たとえばもっともヒトに近いいきもの、サルなどとくらべほんのわずか数センチ違うだけで、いま地球上に65億人の人類がひしめき合って生きている。この65億という個体数は、あらゆるイキモノのなかで最も多い。ナンバー1だ。ちなみにナンバー2の別のイキモノでさえ、数千万だそうである。1位と2位の違いの巨大さ。ひとえにそれがノド、声によるコミュニケーションのおかげだとしたら───今こうして文章を書いている私は、なんという強力な道具をいま自分は操っているのだろうと恐ろしさすら感じるのである。
 もっとも私の専門領域は、もっぱらフェティシスト、それもラバーフェティシストがいかにして、興奮時間を長くして射精を後へずらすかということである。
 言葉がただあっても駄目で、たとえば次世代になにか道具が伝わっていく過程でどんどんイノベーション(革新)が起こらないと進化しない。世代世代であらゆるものの技術や方法、思想を更新し続けてきたからこそ人類はこれほどまでの英知を獲得している。
 言葉をもつ人類はイノベーションをひとつのミッションとして運命づけられているのである。何しろそうしないと過去の絶滅種が教えるように、うちらヒトだって絶滅してしまう。
 さて微力ながら私がイノベーションを起こそうとしているのは、なんといっても、生殖を目的としないオルガスムスをラバーへのフェティシズムによって起こす方法である。キャットスーツを着る。マスクをかぶる。着たまま外へ出てみる。雑誌やビデオを買ってみる。集まって踊る。パートナーと見つけて興奮させあう。
 しかしもっとも重要なのは、そうした枝葉の具体的方法論ではなくして、フェティシズムの考え方そのものの革新だ。行為から離れて、思想体系のなかへ自分の全身全霊を傾注することによってのみそれはなしうる。どのような革新が起こるかどうかそれはまだ分からない。
 はっきりしたことはピッタリした、光沢のあるアイテムをまとったり、そういうのを着ている人を見ることによって起こる自分の性欲へのはげしい刺激。しかもその刺激はヒトによっては感知されない。フェチを感知するヒトとそうでないヒトの違いはなんなのか。フェチを感じる人たちは、これからどこへ行こうとしているのか。
 私は、自分自身のラバーフェチへの著しい傾倒が、年々強まっていくのを知っている。これはある意味恐ろしいことだ。いきれば生きるほど、変態度が増すのである。私は自分の欲望に応えられるなにかを見つけることが、この一生のうちに出来るのだろうか。
 少なくとも同じような考えをもつ私たちフェティシストのために、答えとまではいかなくても、ひとつのヒント、方向性を提示し続けること。それが新しい年にあらためて確認される、私たちAlt-fetish.comのミッションである。
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市川哲也
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