ネットにおける物やサービスの情報源───関心空間の場合

 消費者がものを買うという、必要かつシンプルな行動。その行動の意思決定に、ネットにおけるモノやサービスの情報源がますますウエイトを増している。
 むかしはAlt-fetish.comなどなかったから、フェティッシュな本や雑誌、ビザールコスチュームを買えるのは都心に近い人だけだった。店に直接出向いて買わねばならなかったからだ。しかしいまでは、全国どこにいてもAlt-fetish.comの商品が買える。店しかなかった時代はその店の価格が果たして適性なのかどうかを判断するのは難しかった。しかしいまでは、Alt-fetish.comでさえ、海外の同カテゴリーのオンラインリテーラーとの価格競争と無縁ではない。仕入先の「本サイト」を見れば、現地通貨(ユーロ)ではいくらで売られているのかが一目瞭然だからだ。無知な客から暴利をむさぼるような商売は、このネット時代にあっては、市場消滅という洗礼を今後ますます強く受けるのは間違いない。
 Alt-fetish.comもかなりシビアなところで(つまり利益率をぎりぎりまで落とさざるを得ないところで)やっているために、広告費は最大手検索2サイト向けを除き、かけられない。Alt-fetish.comを「たまたまサーフィンしていて発見」してくれた賢明なるユーザとの、小さくも幸福な関係を今後も続けていきたい(携帯ユーザ向けにサイトを設けないのは、この関係が壊れることを懸念するから。しかしメールのやりとりというフィルターを経れば携帯ユーザも購入できる)。
 chikaさんが最近、「関心空間」というサイトにAlt-fetish.comを登録してくれた。関心空間とは、ユーザーが、自分の気に入った(関心のある)商品やサービスを書き込むデータベース型のサイトである。ユーザーは書き込もうとする商品やサービスの名前をキーワードとして登録し、その説明やコメントを書き込むしくみだ。カテゴリはブック、グッズ、グルメ、エンタメ、ミュージック、スポーツ、レジャー、コンピュータ、アート、ノンカテゴリに別れている。
 すでにブックならばamazon.co.jp、コンピュータならkakaku.comなど、消費者が商品についてのコメントを書き込むことで有名なサイトは各セグメントでポータル的な地位にまで上り詰めた既存サイトが複数存在する中で、こうした広範囲にわたる新規の書き込みサイトがウェブ上で独自のシェアを獲得していくのは難しい。しかし関心空間を見ていると、既存サイトとは違う、独特の雰囲気がすでに醸し出されている。
 たとえば、青空を感じさせるスポットというテーマコーナーがあって、公園や裏地に空がプリントされている傘が紹介されているなど。サイト側の「ネタだし」が、アーティストと組むなどしてなかなか粋だ。単にモノを効率的に買う、モノの情報を出きるだけたくさん得ようというのじゃなく、参加者の趣味が反映されたカルチャー色が強い。したがって、ランキングというのはないのである。カルチャーである以上、それぞれの優劣や序列があってはならない。
 また、このサイトの最大の特徴、キーワードリンクが他サイトともっとも違う点だ。それぞれのキーワードの下の方に、「キーワードリンク」という表示が出ている。「○○つながり」というタイトルで、ほかの登録者が書き込んだキーワードとその説明の一覧が出ている。登録者は、キーワードを書き込むときに、好きなキーワードにリンクさせることが出きる。過去の書き込みから、サイト側が自動的にそのキーワードを探し出してリンクさせて、「○○つながり」というタイトルとともにページに表示するのである。
 たとえばフェティシズムというキーワード。したのほうにフェティシズムつながりでつながったキーワードの一覧がついていて、フェチにまつわるいろいろな映画や本が出ている。澁澤龍彦、O嬢の物語、ピエール・モリニエ(Pierre Molinier)、マルキ・ド・サド、金子國義、ピンヒールなどだ。フェチをつまみにたくさんの関連書籍や映画が掲載されていて、私は大学の文化系サークルの部室を思い出した。本や映画に詳しい友人や先輩が、ポンポン「こんなのもあるよ、内容はこうだよ、印象はこうだったよ」といったことをテーマごとに次々話す。夜が更けるのも忘れたあの楽しい空間がいま、見事にウェブに復刻されたのだ。
 既存サイトのブログやBBSだと、優れたコメントの書き込みが続いても、時の経過とともに埋もれていってしまうのが難点だった。しかし関心空間ならば、コメントはキーワードとともにずっと残る。口コミ情報のデータベースとしてはもちろん、テーマやカテゴリーに造詣を深めるための知のブラウジングにもピッタリな、そんなサイトである。こうしたサイトは消費者が、とりわけ「モノを買う」という体験をもっと楽しみたい、刺激的な、知的自己実現の一貫としてとらえたいと考える賢い消費者を増やすことになろう。売り手としてはますますたいへんな時代となる。
フェティシズムはポルノでもあるby市川哲也
Alt-fetish.com
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