件の晃子様からインフラタブルマスクの感想が寄せられたのでさっそくみなさんにご紹介することにしよう。
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その姿を目にした時、私は数秒間我を忘れた。「HEAVY・RUBBER・MAGAZINE№6」プレタ・ポルテのショーの如く、次々と登場する美しいラバー・ドール達に目眩を覚えながらも、頁をめくっていた。彼女はそんな情緒不安定気味な私の前に、不意打ちの様に現れた。忘れもしないP57。なんてシンプル。でも、トータル・エンクロージャーを極めたその姿の美しいこと。例え様の無い洗練された美しさは、間違いなく私の脳裏に刻み付けられ、ビザール・ファッションの美の極致の一つとなった。
他愛も無いきっかけで、「Alt-fetish.com」という自分の居場所を見つけた私。そして今なお、私の貪欲な探求は終わりを知らず、もはや世間の流行など興味の対象にすらならない。
何時かはあの風船の様な頭部を手に入れたい……。無意識のうちに宿った願望。理解出来ない!? そんなことは好みの問題とサッサと割り切った。そして、全身をラバーに捕食される快感も味わった。私は今やラバーと云うアメーバの体内に取り込まれ、消化・吸収されるのを待つ単細胞生物に等しい。
先日、遂に待ち望んでいたインフラタブル・マスクが送られて来た。無理を言って取り寄せてもらった逸品。はやる気持ちを抑えながら包みを開くと、あの堪らなく甘いチョコレートの香り(※ラバーの香りのことです、編註)。そして、重々しく手応えの有るその物体。手に取ってみると何故か柔らかく、温かみすら感じる不思議な感触。
セルフ・プレイなどでは無く、先ずは試着……自分で勝手な言い訳をしながら、平服のまま左手にボクシングのグローブの様に嵌めて、ゴム球を繰り返し押し潰す。口と鼻に気道確保の為に挿入するチューブが異様さを嫌が応でも強調している。まさに抜群のデザイン。その間にも左手は次第に圧迫され、動かすのもキツクなって来た。しかし更にゴム球を押し続ける。頭に被ってしまえば視界も奪われてしまうので、こと前に目一杯膨らませ感覚を五感で覚えなくては。もっと、もっとより球形に凹凸の無い様に……そして、空気の注入を開始して五分も経たぬうちに、マスクは張り裂けんばかりに膨らんだ。
右手で軽く叩くと分厚いゴム風船の如く、乾いた音を起てて弾き返される。もう充分、この感触を忘れない様に全神経にインプットする。
日を改め、いよいよ儀式に臨む。高まる心。目の前に並ぶ艶めかしいアイテムたち。意識して自分を落ち着かせ、一つ一つ身に纏う。もう慣れた筈なのに、何時も不安になるのは何故?
キャット・スーツ、PVCのロング・コルセット、エナメル・ブーツ、ショルダー・グローブ。写真の彼女を意識しているのは間違いない。
最後にインフラタブル・マスクに念入りにラバピカを塗り込む。みるみるうちに妖しい光沢を放ち始めたマスクは、はや無機物では無くなったかのように一層怪異さを増し、私は蛇に睨まれた蛙同然に成す術もない。そう、首から下の身体は既にラバーという架空の蛇に飲み込まれているのだから……注意深くマスクを被る。チューブを口と鼻に慎重に挿入しファスナーを閉める。
だが、ここで一つ計算外の不都合が生じてしまった。半開きの口元から、だらしなく唾液が漏れてしまう。不快だし不衛生。それに密閉感が半減してしまう。一度マスクを脱ぐと応急処置として、黒い布張りガムテーフ゜に十字の切込みを入れ、口中に少量の脱脂綿を含むと、丁寧にガムテープで口元をパッキングしてしまう。再度マスクを被り、チューブを切込みから挿入し、歯で軽くくわえてみた。今度は大丈夫。きちんと納まっている。
ファスナーを閉じ、手探りでチューブの挿入具合を微調整する。マスク下部、首の部分のめくり上がりも直すとゴム球を手に取り、努めて平常心を保って空気の注入を始める。この段階ではフリーサイズということもあって、顔面に圧迫感は全くなく、むしろ広々とした感じさえ覚える。だがゴム球から徐々に空気が注入されていくにつれて、内側のラバーが顔面を微妙に、しかし確実に、たとえるなら「真綿で首を絞める如く」圧迫し始める。柔らかな内側のラバーが顔面の肌に密着し、なおもソフトに押し迫ってくる感触は例えも無い程心地良く、さらに貪欲に快楽を欲するかのように、私のゴム球を握る右手は休まず動き続ける。
……わずか数分のうちに私の頭部を覆うマスクは、まるで漆黒の風船の様に滑らかに張り詰め膨らんだ。視界の無い閉じた空間の中で、私はチューブを通して静かな呼吸を繰り返す。細い管が発する特異な呼吸音に興奮は嫌でも高まり、管の先端にグローブに包まれた指先をかざすと、ラバー越しにも感じられる微風。ラバーに閉じ込められた私が、異形の姿に成り果てても間違いなく生きている証。いつしか柔らかだったラバーは顔面をしっかり圧迫・拘束し、マスクの内で表情を変えることも、呻き声を上げることすらままならない。それでも、こんなにもがんじがらめに拘束されても、ラバーは優しく温かく私を包み、不思議なくらいに安らぐ。
床に転がしておいたクッションに、手探りでもたれ掛かり、マスクを痛めないようにそっと身を横たえた。実際に見ることは出来ないが、今私はあのグラビアの女性と酷似した姿になっているのだろう。指先でマスクの感触を確かめる。滑らかで球状に膨らんだ頭部。ラバーで覆われた肢体にも、ブーツの脚にも、コルセットにも、静かに指先を這わせる。押し寄せて来る官能の波。ラバーの残酷な愛撫にもう耐えきれない。刹那、背骨から脳髄ヘ狂おしい何かが駆け抜ける。チューブの先から漏れる細く微かな歓喜の悲鳴。私の意識はゆらゆらと底の無い闇へと沈んでゆく。気怠い余韻を味わいながら……。
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身体を圧迫し身動き取れないようにする、外界からの刺激を遮断して、内面に引きこもる。ボンデージの快楽を人類が追い求めた結果、ひとつの究極の答えに行き着いた。それがインフラタブルマスクである。
頭部を二重になったラバーのマスクで覆う。内と外のあいだの空間に空気を注入できるようになっていて、接続されたポンプで空気を押し入れるごとに頭部が強く圧迫される。もちろん首から下も厳重にラバーで覆っている。
晃子さんが今回挑戦したのは、とりもなおさず人間の深層心理へのダイビングである。そしてそのためには、自身を「無機物」にする必要があった。口から垂れる涎=生命が機能している有機物の証を、脱脂綿とガムテープで出ないようにしたくだりなどは、まさに無機質への同一化の象徴的営みだ。実際自分がそうなったところを想像して読んでもらいたい。かなりワクワクできると思う。このワクワク感は、ボンデージ以外では手に入れることができない。
Text by Tetsuya Ichikawa
ラバー・レザー・PVCフェティッシュ
Alt-fetish.com
“インフラタブルマスクの感想” への3件のフィードバック
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今日のテキスト、、恥ずかしながら感じてしまいました。バルーンタイプって、ビジュアル的にどうなのかって感じでしたが、ギアとしては興味津々だったので、、うーん、欲しいかも、。
PS この前の「ペニスフェチ」もそうでしたが「トータルエンクロージャー」でも市川さんちが検索上位でした、、市川さん凄い、、。
chikaさん、始めまして。晃子です。chikaさんの様な才能溢れる佳人に、こんな稚拙な書き物にお褒めの言葉を頂いて恐縮です。底の見えない深淵の様な異界。脱出不能な晃子です。
こちらこそ、初めまして晃子さん。
ゴムの汗が肌から流れ落ちる者同士、仲良くしてやって下さいね。
そのうち蝦頭にも遊びにいらして下さい