メールで質問禁止としたわけとは?

 オルタフェティッシュは十年ほど前に、小金井警察署に風営法の届け出をした。その際に、私は署の生活安全課の担当者に、あれこれ質問をした。担当者は、質問によって、「答えられない」ということがあった。答えられるものと、答えられないものがあって、私は閉口したことを覚えている。
 質問によっては、答えてくれるものはあった。答えてくれたものと、答えられないと言われたものをあとでじっくり整理して分かったのは、彼ら(警察)は、手続き上の質問には答えられるが、店として個別具体的に(これから)提供する営業内容、サービス内容については、一切答えないようにしているようだ、ということだった。
 警察は、風営法に基づいて、届け出をする営業主体が来たら、書類上の不備がなく、法的要件を満たすならば、これを受理する義務がある。したがって、法的要件や書類の不備を直す目的の質問にはいくらでも親切に答えてくれる。しかし、それ以外の質問については、関係がないので答える義務も必要もない。それだけのことである。
 人間は、質問というのは無限に考えられる。歯止めがない。警察はいちいちそれに付き合っていたら、仕事は成り立たなくなる。だから、手続き上必要な内容に限り、答える。質問者は、もしかすると、単に、質問文の形を取っているものの、自分の妄想や欲望を語っているにすぎない場合もある。私が警察にスルーされた(答えてもらえなかった)質問のほとんどは、単に私の興味や好奇心から発せられたものだった(内容が面白ければ、雑談として興じてくれた担当者もいるにいる)。じつは、質問者が、これが質問で、これが質問ではなく単なる欲望や意見だと線引きすることは、誰にもできないのである。そう考えてみると、警察の対応はまことに理にかなっている。

 私も、ある種の形態の質問に答えない。
 最近、オルタフェティッシュは女性も接客仕事をする場となっている。職務内容は女性の試着をサポートしたり、健全マッサージのサービス施術だ。風営法の届け出はいまは取り下げていてもう届け出店ではないので、女性店員がするのは性的サービスでは断じてないのは言うまでもない。このことは店のガイダンスページで事前に利用者に告知している。にもかかわらず、たまに、メールで質問が来ることがある。
「●●できますか?」「●●してもいいですか?」「●●お願いできますか?」(●●には性的なニュアンスを帯びる言葉が含まれる)というような。
 サービス提供事業者の立場から言わせていただくと、非常に違和感がある。そうした質問をする前に、一度胸に手を当てて、次のような問いを想起していただきたい。
 自分は、ユニクロにこれから試着しに行こうと思っている。その前に、ユニクロに「●●してもいいですか」とメールで聞くだろうか?と。またあるいは、整体をうけにいくにあたって、「●●お願いできますか」とメールするだろうか、でもいい。●●には、繰り返しになるが、性的なニュアンスを帯びる言葉が入る。もしそんな質問してしまったら、実際そんな店に恥ずかしくて行けますか?いけるわけがない。なぜなら、そんな質問者は頭おかしい変態だということになるからだ。
これでもピンとこないか?では思考実験その2。想像してみてほしい。あなたが、ユニクロの店員をしているとする。メールが来る。読んでみると、「女性店員に持ってきてもらったものを着せてもらい、しかもそのまま更衣室で●●していいですか?」(●●は性的な内容)と書いてあるとする――キッショ!ヤベえわこいつ、以外のいかなる感想も出てこないだろう。

 うちが、性的サービスをしていないとご案内しているのは、うちはユニクロだとか、整体マッサージ店と同じ界隈だということを意味している。ちなみに、質問のメールを読むのは、ことごとく、このおっさんの私、不肖・市川哲也だ。私に頭がおかしい人と思われたくなければ、そうした質問はしないでいただきたい。なお、このように長々と書くのはいちいち大変なので、DMやメールでは一律質問は厳禁とした。
 ただし、禁止なのは、メールやDMに限る。電話は除外した。電話だとそういうことを聞いてくる人はまずいないからだ。当たり前だ。まともな人間なら、電話の相手、つまり、オルタフェティッシュの店長(しかもおっさん)の私に、そんなことを恥ずかしくていえるわけがない。
 性的なサービスとは関係がないものの場合は、DMでもメールでも質問していいのではないかと思う人がいるかもしれないが、だめだ。なぜなら、その線引き(質問者の質問が、性的なものを帯びるかどうかの)は、これまた、質問者に委ねられることになり、妄想ループが歯止めきかなくなる余地が出てくる。繰り返しになるが、何か聞きたいのであれば、電話で直接聞いてもらいたい。そうはいっても、ほとんどのお客様は、お店のガイダンスページを読んだならば、質問してくることはほとんどないし、電話で質問だけということもめったにかかってこない。

 質問がしたくなったら私のこんなエピソードを紹介しよう。私は16歳、高校一年のときに、吉祥寺駅の井の頭公園口の、丸井の確か裏あたりにあったクリニックで包茎手術を受けた。包茎なんじゃないかと気になったので、受診した。先生はこれは手術しないとだなと言ったので、3日後に予約を入れた。家に帰り、3日後の手術のことをあれこれ想像した。麻酔注射はちんぽのどこに、何本打つのか、そのときどのくらい痛いのか。どうやって皮をカットするのか? 何分くらいかかるのか? 手術痕はどのくらい残るのか……? 質問は頭の中に止めどなくわいて出てきた。しかし私は寝ることにした。寝てしまえば質問はわいてこない。そして、起きているときは淡々と高校生の日常の作業に没頭した。そうこうしているうちに、手術台に寝そべるその日、そのときが来た。手術はあっという間に終わり、いまでは、こういうふうに「ネタ」として人生の財産になっている。それに、先生が言ったとおり、余計な皮がなくなったので清潔だし、形もよく生育した。

 さて。ここまで読んでもなお、(当店試着サービスについて)質問がわいて出てきて、メールしたくなったとしたら、そんなあなたは、不安神経症の入り口に立っていると思ってもらってかまわない。眠れないならなおのことだろう。うちに来る来ない以前に、心療内科の専門医に一度相談してもらったほうがいいだろう。そして、作用の穏やかな入眠補助剤を処方してもらおう。ぐっすり寝ればいい。予約の日まであっという間に過ぎる。私が包茎手術の日まであっという間だったように。

 最後に、こんな話も書いておこう。空港や駅には、トイレがある。トイレがあれば、そこで用を足すのに、誰も質問などしないだろう。当店では、ペニスシースを試着、販売している。ペニスシースを試着できるということの意味は、そこにトイレがあるのと同じようなものと考えてもらってかまわない(語弊があるとまずいので註を入れるが、もちろんペニスシースに放尿していいということでは断じてない!)。つまり、物には、用途があるということだ。その用途を試す、使うのにあたって、質問などしないのである。答えは、その物の用途に自ずと内蔵されている。