(長い!読みたくない人は写真だけで内容が分かります)
文学とは何かといいますと、個人的体験の普遍化です。今日、世の中にあふれる情報が均質化し、あらゆる人間の活動がシステム化(定型化・平準化)されつつあります。世界を超えてこの傾向は加速しつつあります。どこの郊外に行ってもおなじコンビニエンスストアのおなじ品揃えが暮らしを支えているし、ネットの世界でもヤフーやミクシーといった大企業がコミュニケーションの中身さえ同じようなものに平準化しています。
そうした平準化された世界、システム化された社会のなかでストレスを感じ、違和感を覚え、自分は違うともがきながら生きている私たちが一方で確実にいます。私たちの違うという問題、自分は違うんだという意識こそが、私たちにとっての生存であり、それは毎日の個人的体験の蓄積のなかでより克明に見いだされる感覚でしょう。
さてここに文学が出てきます。文学というのは個人的体験(エピソード)を書き記すことで大勢の読者のあいだに共感知を引き起こし、社会全体がそうであるかのような普遍化をもたらします。この普遍化が、システム化された面白くもない、まったく古くて変わらない社会に違和感を覚える私たちにカタルシス(浄化作用)をもたらしているのです。
写真もまた文学のような相貌を持ちます。写真芸術の本質、あるいは正統的な写真の作風を云々するとき、必ず問題になるのが、わたくし性ということです。表現が一般にそうであるが、写真はしょせん、私(すなわち撮影者自身)の感情の表白です。ところで、それは、作者の体験した事実を忠実にウソ偽りなく模写することによって成り立つ「感情の表白」であるところにその特質があります。ですから、一枚の写真を裁く価値基準があるとすれば、それは撮影者の体験した諸事実が、いかに迫真性を帯びて、一瞬の露光に表現されているか、という点の判定にあります。
感情は個人的体験の結露です。写真は個人体験でありながら、文学同様、見る他者(もの)に共感知を引き起こすことができます。そういうわけで今回、秋葉原で行われた某デジタル展示即売会に文学作品としてのALT-FETISH.comDVDやMARQUIS刊行物を展示即売してみました。売り子にラバーキャットスーツを着せたので、お題は「ラバーキャットスーツin秋葉原!」
2011.12.30はコミケの3日目に該当します。このイベントはコミケとは無関係ですが、コミケから流れてきたヒトタチを集客できるよう、夕方から夜まで行われていました。場所も秋葉原なので、コミケから流れてきた方々が大勢やってきます。
市川がもっとも驚いたのは、展示即売会でありながら、会場の壁際にコスプレイヤーが数メートルおきに立ち、カメラマンのシャッターを浴びているのです。つまり即席の撮影会になっていました。いや正しくは即席とはいえません。カメラマンたちは、撮影したいと思うコスプレイヤーの番号が書かれた「整理券」をあらかじめ主催者側から購入していました。お目当てのコスプレイヤーを撮影するのはひとりのカメラマンで、「持ち時間」は観察によると3〜5分程度でしょうか? その間、同じコスプレイヤーの整理券を買った他のカメラマンは、列を作って並んで待っているのです! カメラマンたちは手に手に、日本製の一眼レフカメラを持って無言で自分の番を待ちます。そして、コスプレイヤーは床に寝そべったり、股を広げて下着を●●●したりしなかったり、もう大サービスです。指を半開きにした唇にそっとのせる。ずれためがねを直す仕草をする。短いスカートのあいだから白い太ももを露出させる。そんなひとり芝居の素人女を、いい大人が黙々とカメラに収めます。カメラのシャッター音だけが響きます。
もちろん、コスプレイヤーは特定のゲームやアニメのキャラクターに由来する衣装のコスチュームを身につけています。したがって、なんのキャラにも由来しないALT-FETISH.comの売り子siki嬢は浮いてしまっています。なんのキャラですかと訊かれても答えようもありません。ドイツの有名?なファッションブランド、Cosmic coutreのものですといったところで知ったこっちゃありません。
同人メディア即売会ですからみんなが売っているものと、ALT-FETISH.comが売っているものには甚だしい乖離が、ここでも生じています。ALT-FETISH.comはMARQUISの雑誌や、自社のエロDVDを格安で売ってみました。しかし売れたのは、あどけない少女がラバー姿でファックしている(ように見えるよう作った)まどか二十歳がわずかに2枚だけ。この結果については私は怖すぎるので論評を控えます。
左右のブースの方々が売っているDVD(というかjpegファイルがたくさん入ったCD-ROM?)、行列ができていて、どんどん売れていきます。一体何だろうと拝見しますと、結局これも特定のキャラクターのコスチュームを着てそれっぽいメークを施した販売者本人(!)が、きわどい姿態で写っている写真集でした。よく売れているのはエロいこと、しっかりキャラを表現していること、そして本人が手売りしていることです。ただここでいうエロさがALT-FETISH.comが追求しているラバーキャットスーツの美学とはまったく無関係であるという点は強調すべきでしょう。だって、連中のエロさの本質は、「露出」だから。真逆でしょ、ALT-FETISH.comは。ALT-FETISH.comが至高とするエロティシズム=トータルエンクロージャー、分かりやすくいえば全部覆い隠す!!ですからね。それに、ALT-FETISH.comにはキャラがいないのも皆さんに評価してもらえない要因かもしれません。ざんねん!
取材・文 市川哲也
スタッフ siki様
衣装協力:COSMIC COUTURE マーキスジャパン様
|