この作品は、2002年晩夏、ポーランドの古城を10日間借り切って、過去最大規模の予算を投入し、イヴ・エリス、ルーヴァ、ティナ、ナターシャ、そしてビアンカ・ツェルニヒの5名の出演陣により行われた大規模な作品である。監督はもちろん、ピーター・W・ツェルニヒ。古城の主役はピーターのワイフ、ビアンカである。古城に一夜の宿を求め、あっという間にポニーガールに仕立て上げられてしまう気の毒なツーリスト役に、ラバーボンデージで好演したアメリカ出身のフェティッシュクイーン、イブ、古城ですでにポニーとして仕えるメイド役にナターシャ、恐ろしい女執事役にルーヴァという布陣だ。
物語はイブが車の故障のために、近くに見つけた古城を訪れ、一晩泊めてくれと頼む。中からラバーの執事コスチュームをまとった人相の険しい女執事が現れる。泊めてもらうことになったが、自分がポニーガールとして調教される夢を見る。しかしそれが現実のものとなる。すでにいたポニースレーブガールとともに、我を忘れてポニーへと調教されるイブ。城での奴隷生活が始まった───。
そもそもポニーガールとは、女性を思いのままに、まるで物か人形のように扱いたいという男性の、または、自分がまるで馬のような動物扱いをされることを目的に見た目や動作を徹底的にコントロールされたいという被虐願望を持つ女性のためのSMの一ジャンルである。
ポニーガールはヨーロッパのビザール世界において一定のポジションを占める歴史と伝統あるカテゴリーだ。ポニープレイは日本の「茶道」のように厳格なルール(作法)があり、決められたいくつかの道具が不可欠な要素としてある。まずルールだが、ポニーガールになったら、あくまでも馬のように振る舞わねばならない。口には轡がはめられるので話すことは許されない。また、手で前足を表現するため、つねに胸前に上げて手のひらをしたにしてすぼめる状態にする。脚は歩行時に膝を腰近くまで上げ馬の歩行のテンポで歩く。これは腿がかなりツライ「運動」そのものである。
道具としてはポニーカートを取り付けたり、あれこれコントロールするためのロープをつけるための各種の金属の拘束具(胸や腰につける)、無口と呼ばれる、ヘッド部分につける物(競走馬が頭にかぶっているあれです、手綱をつける)、そして口にくわえる轡、しっぽ(ポニーテール)、ポニーカート(馬にひかせる車)、鞭などがある。
こうした道具たちは、人間のプレイのために美しくデザインされてヨーロッパでは普通に流通しているようだ。いずれもプレイのためにのみ、専門の工房で開発された本物、逸品である。安い日本のイメクラにあるようなオモチャとは訳が違う、そのことは本作品を見れば誰もが首肯するところだろう。
本作品で登場するポニースレーブガールは、全身を茶色や黒のラバーのキャットスーツに包み、その上にきらきらとまぶしく日光を反射するシャープな金属のボンデージ具を装着する。口には轡がはめられ、口は利けない。足には馬の蹄のように金属環が取り付けられた、踵のないポニーブーツを履かされる。美しい白人美女たちがこうした本物の、重厚なビザールアイテムに彩られる姿は圧倒的に美しく、無表情に「馬」化してカートを牽く姿、蹄が砂利を踏む音、すべてがビザールな「秩序」の名のもとに凛とした迫力を放つ。未知の映像体験を読者に保証する。
演じる本人は、厳しい動作のルールをこうしたそれなりに重さのある装備を身につけ、しかも全身ラバーで演じるわけだから、肉体的にも相当なプレッシャーがかかるにちがいない。時折むち打たれながら、主の乗るカート(馬車)を牽くその目は恐怖の色を帯びながらもある種の悦びに満たされているようだ。肉体に確実に疲労を蓄積させながらも、むち打つ主のために無抵抗に従い続けるラバー美女。まさにすべてのフェティシストにとって、それは桃源郷の風景そのものなのである。
マーキスの新作「ポニーガール(パート1)」はこのSMの重要なカテゴリーを詩情あふれる見事な映像美の世界へと昇華させることに成功している。この作品には、およそ女性の裸、ファックシーン、オナニーシーン、こういったものは一切登場しない。もちろん、延々むち打ったり、縄で縛って放置したりといったありがちなSMのモチーフもない。ただあるのは、「城」「主」「執事」「ポニー」「調教」こういった馬術の世界、近世ヨーロッパのお城の世界そのものだ。のどかな草原でポニーたちが戯れるシーンもある。
しかし、そのポニーの姿は、恐ろしいことに人間、白人女性なのだ。それが、ビザール感あふれるラバーのキャットスーツにオイルをたっぷり塗り、専用にデザインされたボンデージを身につけ、主の馬車をむち打たれながら牽く。
美しさとエロティシズム。ここに歴史と格式を見事に溶け込ませた珠玉の映画作品、それがポニーガールである。
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