めっちゃエロい場所

オルタフェティッシュがはじめに東小金井で実店舗を始めたのは2008年頃だったかと思う。それ以来ずっと、お客さんが立ち入ることができる場所のマネジメントを続けてきた。

大昔、最初、オルタフェティッシュはメディア企業を志向していた。海外のマーキスという、ラバーフェチのめちゃくちゃかっこいい写真雑誌を輸入したり、まねしてzineを作ったりしてきた。

zineはあいにく続けることはできなかったが、場所の営業だけはいまだに続けられている。

たまたま読んでいる本で、普通という異常 健常発達という病 (講談社現代新書)によれば、人がおかしくなるのは色、金、名誉のどれかがコケた場合だという(もちろん、きわめて乱暴な議論であるという留保はつく)。これらが、身の丈に合った程度に希求され、そこそこ、満たされてればその人の人生はオッケーなのだが、バランスが崩れたり、全部だめになったりすると、もうだめだ。発言や行動がおかしくなり、ヤバいヤツと思われて、周りから人がいなくなる。最終的には統合失調症とか、陰謀論にハマってみたりとか、まともに社会生活が送れなくなってしまう人もいるだろう。

欲望は程度の問題がもちろんある。渇望感からおかしくなるし、全部が弱いということは、うつ病になっているのかもしれない。ほとんどの人はもちろん折り合いをつけて、なんとかうまくやっている。

私はこのブログとか、ツイッターで長年、自分自身の、この色、金、名誉のどれかの欲求充足のために、あれこれ言いつのってきたところはあるかもしれない。店のしつらえやコンセプト、たまにやるイベントも、そういうとこがあっただろう。要するに、誰の満足かということ。自己満足だった。

最近は私は、「無」の境地でひたすら「試着しに来ませんか?」と言い続けている。壊れたレコードみたいに、新小金井駅の近くに借りたアパートに人を招いてお金をもらって、ラバーを着てもらっている。村上春樹の小説に出てくる「僕」のような面持ちで、正確に、ミスなく、エリート国家官僚のようにラバーの試着という作業を毎日のようにやっている。

場所を用意して、こういうことを続けるってことこそが、あらゆる「物語る行為」やら「言論発信」をはるかに超えて、価値がある営みだということ。これに集中するということ。これができるようになったのは、コンサータさんのおかげなんだが。ADHDの定型作業に、コンサータ。いい薬です!

話が戻るが、自閉症傾向のある男性はなぜか鉄道が好きだ。鉄オタっていうでしょ。鉄道の何がいいのか。私はそれほど鉄道が好きではないんだけれども。鉄道ってのは、「場所」なんじゃないの? 人でも、交流でもなくて、「場所」であるってところがいいのではないのかね。

どういう場所かって言うと、自閉症傾向のある人ってのは、基本的には自分の欲望に忠実で、欲望を成就するためには基本的にはもっともコスパがいい最短経路を選ぶ。

鉄道ならば、数百円で切符を買えば、巨大な鉄の物体が定刻通りやってきて、それに乗ることができる(写真も撮れる)。駅とか線路に行きさえすれば、欲望はかなえられる(鉄道をみたいとか、乗りたいって言う欲望)。これはコスパがかなりいい。

いま、仮に、人に何らかの手応え、満足をもたらす原因は、質量と移動だとしたら、鉄道ほどドストライクなモノってないのでは? 重い車両が、猛スピードで動くでしょう。

普通の人は、「色、金、名誉」が欲望の三大目的なので、鉄道なんて興味ない。だから、鉄道に興味を持つ人、鉄道オタクの欲求というのは、理解されない。私も分からないからこうして推測で語るほかない。

数の問題で、多くの人が、色、金、名誉欲は普通で、鉄道は意味が分からないから変態だオタクだとレッテルを貼って馬鹿にしているだけだろう。まったく失礼な話である。

しかし、今や、世界中から観光客が殺到している日本で、何が驚かれるかと言ったら、鉄道の正確な運行だったり清潔な車両だったりする。

世界からみて、日本て、変態オタク国家なんだという風に見えるだろう。鉄道をこんな風に、奇妙に正確に、清潔に維持管理して運行し続けるカルチャーって何これ? しかも、ナゾに、鉄道の写真を撮っている日本人が駅にいたりする。なぜ移動手段に過ぎないモノを、写真を撮るのかという話だ。奇妙にもほどがある。

つまり言いたいのは、日本は変態だってことだろう。変態の、変態による、変態のための国家、それが日本の今なのではなかろうか、世界からみて。

なぜそう思ったかというと、ラバーの試着に、海外からも人がやってくる。この、西武多摩川先進小金井駅から徒歩90秒のところに、世界中からやってくる。マジで。で、グーグル翻訳とかで、予約してきて、ちゃんとドア入ってくる。

これある意味驚きだ。しかし、私がもし、逆に、そういう海外からラバー試着しに日本にやってくる立場だったらどうかと思う。電車にガタガタ乗って、小さな駅舎を降りる。無個性なワンルームマンションが密集している住宅街に建っているマンション。伝えられた建物のある部屋を開けると、中はきれいに清掃された、ラバーコスチュームがたくさん掛かっている、奇妙な内装の空間である。

そして、2時間のあいだに、期待したとおり、本当に実際にラバーを着て楽しく自分の身体の反応を堪能できる。

きっかり2時間後に、部屋を出て、また正確に時刻表通りに電車が来るから乗って帰る。

じつに驚くべきことだと思う、普通に考えて。でも、日本が、とにかく変態のための、変態による、変態の国なのだったら、まったく普通だろうこれが。これこそが、日本だろう。日本sugoi Hentai!

ある、東南アジアからやってきた青年は、いくつかの言葉を知っているといった(ほとんど英語)。その言葉の一つは、「mecha eroi」(めっちゃえろい)だった。