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だっこちゃん
 日常の風景の中で、われわれ誇り高きフェティシストの心の琴線に触れるモノに出会う瞬間がある。たとえばこのあいだ、家の近くの駅の前で、炎天下、ウェスタンハットに黒のノースリーブ、ミニスカート、そして黒の去年はやった合皮素材のロングブーツを履いたモッズヘアのキャンペーンガールの姉ちゃんがティッシュを配っていた(後日、都内の地下鉄駅の地上出口でも同じ格好のギャルに出会った。ゲリラ的に、短期間にベッドタウンとオフィス街の駅周辺で同じ格好をさせてティッシュを配らせるのは、フェチアイテムを咬ませればかなり効果的だ)。
 残念だが、真夏(しかも水不足)に街中でブーツギャルに出会うのは難しい。しかし、ファッション誌を持つ出版社のスタイリングルームには、気の早いモードに敏感に反応したスタイリストたちが、次の秋号の準備のために続々とブーツを運び込んでいる。今年の秋冬のロングブーツは目を疑うほどフェティッシュなものが多い。毎年のように新しい素材が登場するが、今年はエナメル素材なんだけど、薄くてソフトなので足に密着し、足のラインやくるぶしにピッタリとまとわりつく素材が登場。色も、メタルっぽくて実にエロい。ドミナ風の編み上げブーツもある。
 去年と顕著に違うのは、厚底、太いヒールが消えて、おしなべて薄底で、ヒールも細くて女性らしいものが多いという点。フェティシストから見ればこれはプラスといえる。去年の厚底はどうも安っぽさ、嘘臭さが感じられていまいちだったが、今年は伝統的なヨーロッパのドミナのブーツのスタイルだから説得力が違う。「あー、もう、そのまま踏んでください!」。街で、ヨーロッパ正統SM史を体現する女性たちが闊歩する秋がなんと待ち遠しいでことか、ご同慶!
 さて、今、数十年ぶりに復活した、ある恐るべきフェティッシュ・グッズについて最後に触れておこうと思う。
 その名は「だっこちゃん」(http://www.takaratoys.co.jp/dakko/)。
 さまざまな角度から、このなんの変哲もないビニール製の玩具を眺めていて、私は思いがけず自分の理性を、人間性を疑う体験にブチ当たった。勃起したのである──。
 その最初の勃起から48時間以上経過した今なら、冷静に「なぜ勃起したのか」を読者に開陳することができる。ウェブサイトに写真を掲載しているので見てほしいが、だっこちゃんは継ぎ目に直角にしわが入っている。そのしわは、ブーツのしわ、キャットスーツのしわと同じように、中に肉がみっちりとつまり、第二の皮膚たるビニル素材が、一寸の隙間もなく皮膚に密着している様を表しているのだ。このしわを見ていると、「自分もこんなしわができるくらい、何かを皮膚に密着させて着てみたい」と想起させられる、これはフェティシストとして典型的な志向の流れで、万人の共感を容易に得られるに違いない。そう、勃起はこういう風に思ったときに、一気にその絶頂に達した。
「だっこちゃんに、なりたい」 01.8.7
 
 
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