フェティシストのオナニーを究める
筆者、中学生時代の思い出。国語の授業中、印刷の匂いのする真新しい三省堂の「新明解国語辞典」でオナニーと調べる。「自慰・マスターベーション」と書いてある。そこで、はやる気持ちを抑えながら、自慰とかマスターベーションを調べると今度はオナニーと書いてある。ええ、いったい何のことか、結局分かんないじゃんと授業中の教室の片隅を湧かした。
そんな筆者も、すでに三十路も目前。いまやこうして皆さんのオナニーの身近に役立つことを生業としつつある。我ながらオナニーにはお世話になった。そこで、今回、十数年ぶりにこの辞書(ただし版は重ねている)の「オナニー」を皆さんと一緒に調べ、フェティシストとして成熟した視点からあらためてオナニーとは何か、そのただしい方法などを考えたい。
おどろく、同い年、お腹、(中略)おなぐさみ、おなご、おなじみと…ときて、お、あったぞ。「オナニー」(ド Onanie)。(ドというのは、ドイツ語と言うこと。そういえば、マーキスも、ドイツ)
「おなにー【オナニー】手などで自分の性器を刺激して、快感を味わう行為。自慰。手淫(シュイン)。」
……「手などで」の「など」って、手以外に何があるの? それに、いったい、読者の皆さんのうち何人が、手(など)で性器を刺激するだけで快楽を味わうことができるだろうか。それにこの説明だと、シチュエーションも問題にされていない。たとえば「毎年恒例の高円寺阿波踊り大会に参加した子供を、沿道から眺めるカメラ片手のお父さんがもう一方の手などで自分の性器を刺激して、快感を味わう行為。」が付いても、それはオナニーということになる。百歩ゆずって、「帰省ラッシュがはじまりました。泣きわめく子供をなだめすかしながら新幹線のぞみの立ち席キップで5時間立ちっぱなしで乗車してヘトヘト顔のお母さんの中には、手などで自分の性器を(以下略)」で、仮に快楽を味わえたとして、オルガズム(イク)についてまったく触れていないこの説明文に納得できる人はいないだろう。辞書の著者などは、やはりオナニーどころではなかったのかも知れない。まるでこの説明では、他人事ではないか。私は、憤った。オルガズムなしで、シチュエーションも問わず「手でいじるだけで気持ちよがること」という不名誉な言われ方をしている、オナニー。これでは、ほとんどシカトである。筆者(文学部西洋哲学卒)は、言葉の定義がないがしろにされることは、その指し示す対象物がないがしろにされているか、無視されているに等しいということを大学の哲学科で学んだ。こんなことは、キリストが生まれた今から2000年以上前から、当たり前のことだよ。ああ、日本人は、2000年ものあいだ、オナニーについて、ほったらかしにしてきたんだ。
ごめんなさい、オナニー。
オナニーの語源は、なんと聖書にあった(http://www.yk.rim.or.jp/~hama/MI/onan.html)。神(主)の都合で兄の未亡人のところに入った「オナン」が、主に子供を作れと言われたが、そんなのイヤだとばかりに地面に(精液を)流していた、というくだりから、膣外射精をオナニーと言い習わすようになった。
新しい歴史教科書・年表・抜粋
西暦0年12月25日 キリストが生誕
西暦2001年7月7日 100人ばかしのフェティシストがオナニーについての真相を知る
ああ神様。人類って、何も進歩していないんですか? いいえ。この2000年のあいだに、我々は、フェティッシュ・オナニーというのを開発した。それはこういう方法だ。
【準備編】オーダーメードのキャットスーツ、ブーツ、グローブ、ラバーマスク、シリコンの光沢剤、ローション、コルセット、マーキスのビデオ(と再生装置)、大きな鏡を用意する。
【実践編】 男女を問わず、光ってピッタリするゴムやレザー製のコスチュームを、素肌に寸分の隙間なく密着させて着、コスチュームの表面はグロスを塗ってテカテカに光らせて、おもむろに性器の部分をジッパーで開けて性器にローションを塗りつけて刺激し、あらかじめビデオでたっぷりとフェティッシュ・ビジュアルが詰め込まれた大脳のイメージソースを自在にプレビューして、身体がケイレンするほどのオルガズムに達し、精液をほとばしり出す。
その場合、自らの姿をじっくり鏡に映しだし、近くでマーキスのビデオをなんでもいいから再生させてその登場人物になりきれば、身も心も完全に「フェティッシュ・ハイ」になることを、重要な補足として付け加えておこう。
【後始末編】
死にたくなるほどの後悔と自責の念にさいなまされるが、これに耐えながら、後始末をしなければならない。そこで参考になるのが『なぜか、「仕事がうまくいく人」の習慣・世界中のビジネスマンが学んだ成功の法則』(ケリー・グリーソン、PHP刊)。この本によれば、とにかく「すぐやる」ことが成功のポイント。成功者になるには、たとえ最高にブルーになるオナニーの後とて、例外は許されない。まずはもっともいまいましいことをすぐやろう。すなわち、精液が付いたコンドームやティッシュを一刻も早く取り外して、裏紙などに包んで絶対に外からそれと分からないように小さく丸めて「すぐ」捨てる。そして結構値の張るフェティッシュなグッズどもを「すぐ」きれいにする。同居人に気が付かれないよう、跡形もなく片づけて普通のオナニーの5倍くらい「すぐ」ヤな気分になるものの、1週間もすればまた「すぐ」うずうずしてきてしまう。これであなたも、「なぜか、「オナニーがうまくいく人」の習慣」を体得できたことになる。人類の膣外射精もここまで来た。2001.7.7▲ |