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幻のフェチ雑誌「TOPAZ」(英知出版)のボンデージ特集を読む
 先日筆者は神保町の古本屋ブックパワーRB2でTOPAZというボンデージ・グラビア誌を見つけた。1200円の定価で、奥付を見ると94年に英知出版からエロ本の「ゴクウ」の別冊として出版されたもので、古本屋ではていねいにビニールに包まれて、3000円の値が付けられていた。
 大きさはB5版で表紙は盛本真理子という筆者の知らないモデルで、エナメルのロンググローブ、鞭、ビスチェ、ストッキングで決めているが、まったく似合っていない。なかにも数点のグラビアフォトがあるが、ポーズもひどくいかにも安っぽい。まるで3年前に出版したファティーグのようだ(笑)。
 しかし、中の特集「ラディカルボンデージ」は執筆陣といい、内容といいなかなか濃くてよかった。
 特集ページは次のような名コピーではじまる。「ボンデージ・イズ・ボンデージ。ボンデージに説明は不要だ。ただ、どこまで強く、徹底的に拘束できるかが、そしてそれとは逆に我々がどのくらい遠くまで行けるかだけが問題なのだ。」
 特筆すべき執筆陣とそれぞれの内容は次の通り。
【秋田昌美】「ディシプリンの誕生」
 16〜18世紀の科学啓蒙時代に、個人という概念がもたらされたが、その結果それまであった拷問行為(刑罰)における残酷さはモラルによって監視・処罰といった近代的監獄制度に取って代わられた。「公」を離れて「個」に潜った残虐な刑罰的行為は、そのとき、はじめたエロティシズムと結びついた。
【AZZLO】「究極の革拘束器具 ノース・バウンド・レザー」
マドンナも御用達の革職人、ジョージ氏がオーナーをつとめる有名ブランドの紹介。ギチギチ革拘束な世界を一流の革小物で楽しみたい気分にさせられる。「手枷・足枷、シンプルなギャグやムチがパッケージングされているボンデージ・スターター・キットという初心者向きのセットが用意されているので、このあたりからはじめるのがいいだろう。」
【山崎シンジ・談】「サトクリフと「アトムエイジ」」
レザーやラバーの工房ATOMAGEを61年にロンドンではじめたサトクリフ。世界初のラバーフェティシズムの専門誌となった「ATOMAGE」も刊行。コスチュームデザインの評価も高く、テレビやオペラの衣装を担当して活躍した。
 筆者がフェチに目覚めつつあった94年当時、このような重要な雑誌が刊行されていたわけだが、今読むとずいぶんと古びた寂しい印象を受ける。写真も安っぽいし、先述した重要記事以外はほとんど見るところはなかった。TOPAZ自体、さほど話題にならずに消えていった。
 今、フェティッシュな読者たちはどこに行ったんだろう。大学を出て以来ずっと出版に携わる身として、そして一個のフェティシストとして、とても気になっている。次の三つの新しく勃興してきたメディアに行ったのではないか?と推測する。
【ゲームと周辺メディア】
 ゲームやそれに関連した雑誌、コミック。ファンタジー系とでもいえばいいのかよく分からないが、先日も、ワニマガジンのあるコミック誌の表紙が宗方士郎のラバーコスチュームのロリコンぽいイラストで、目を引いた。どう見てもラバーだが、キャラっぽいデザイン、靴やグローブなどの小物も緻密にオリジナリティー豊かに描かれていて、単なるボンデージ・イメージよりもよっぽど魅力的だ。
【ビデオ・DVD】
 くしゃみフェチとか洗髪フェチが、自分でインディーズビデオを作って、家で注文のたびにダビングして小銭を稼ぐ一方で、ナスダックに公開する世界的アダルトメディアコングロマリットも存在する。しかしどうもオルタ・フェティッシュのフェティシズムはどこにもないような気がする。(マーキスは自分で言うのもあれだが、ちょっと高いし、日本人は出ていない)
【ファッション・フォト】
 プチグラ・パブリッシングとか、DUNEなど小資本の雑誌社がたまにかなりかっこいい、フェティッシュフォトを載せる。もちろん海外のファッション誌は非常にフェティッシュだ。
 これら三つのうち、特にゲームの影響は大きい。フェチはゲームに食われているような気がしてならない。
 ここで、賢い読者なら、もう一つ欠けているメディアを指摘してくれるだろう。そう、インターネット。自分で発信したり、自分と趣味のあう他人のページを見る。もはやフェチの細分化は極限状態といえる。するとネットのように、個と個を結びつけるメディアが力を持ってくるのも当然だ。
 フェチの良さはただ自らの直接的な(性)欲望を満たすだけではなく、知的好奇心が赴くままに、しばし日常を離れて冒険できるとだ。ゲームやビデオでは、肝心の想像力が育たない、何しろあまりにも受け身的で完成され尽くしてしまっているからだ。TOPAZの中途半端なバックナンバーを眺めていて、ますます想像力を強くする筆者の夜は更けゆく……。2001.6.16
 
 
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