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ラバー・プレイの流儀を究める──『ラバー・ボンデージ』から

 マーキス社から、比較的新しい(執筆当時)作品『ラバー・ボンデージ』(現在は取扱なし)が届いた。さて、今回はこの作品について語ることにするわけだが、その前に、先般のアメリカ同時多発テロで亡くなった人の中にかなり高い割合で含まれていたと推測される、金融関係のエリートフェティシストたちに黙祷を捧げたい。彼らが永遠に失ってしまった、生きて(!)ブーツを眺めてオナニーするという至福の機会を思うとき、私はもっとも甚大な憎悪を犯人に対して思うのである。今や世界は、フェティシストの(オナニーの)自由が大いに脅かされる新しい事態、新しい戦争の世紀に突入したことを実感する。黙祷──。
 さて、本題。この魅力的な作品の監督はもちろん、ピーター・W・ツェルニヒ氏。あらためて、ここでピーター・W・ツェルニヒ、そしてマーキス社について概観し、その中におけるこの作品の位置づけを考えたい。ピーター・W・ツェルニヒは広告ディレクター出身だけあって、彼の作品は独特の美学に基づく真のラバーフェティッシュ・ビューティを追求する真摯な姿勢が随所にみられる。カメラ・ワーク、小道具、舞台設定、そして群を抜く美しさのモデルたちと、衣装。映像を構成する要素のどれをとっても妥協するところはない。これらを堪能し、楽しむには、観る側としても高い意識を要求されることはいうまでもない。
 ドイツは、BMWやメルセデス・ベンツといった高級車の世界市場において常にトップクラスの実績を誇る。いいものを作ろうとする情熱と、それを実現し続ける高い知性、忍耐力。そんなドイツ人のひとり、ピーター・W・ツェルニヒが本気でフェティッシュビジュアルを追求しようと設立したのがマーキス社だ。古今東西、あらゆる「ポルノ・ムービー」が量産されているが、殊、フェティシズムにかけて、マーキス社に勝るメーカーはないと筆者は確信している。ピーター・W・ツェルニヒはフェティッシュに人生をかけている。大きなビデオプロダクションが、利益追求のために量産するポルノとは違い、マーキス社の商品には理想的なフェティシズムのために多大な投資が行われている。その証拠に、彼はしばしばマーキスの編集後記に、自分のすべてをなげうってマーキス社を作ったとか、数千万の専門スタジオを建設した、などと述べている。
 とはいえ、妻帯し、社員も4人抱える彼が、いくら何でも利益度外視の新作を作り続けるわけにはいかない。セックスやオナニーを直接女優に演じさせ、性器も露出するシーンのある作品は、おそらく売れ行きがいいのだろう。これらの作品は、純粋にフェティシズムを追求した作品に比べ、モデルの質は間違いなく落ちるようだ。しかし、それでも彼は、ストーリーやコスチュームにおいてぬかりなく作り込んでいる。性器が露出するシーンも、ポルノではないので、ほとんどないと言っていい。しかし確実にあるにはあるので、日本で売るにはシーンをカットしなければならず、非常に残念である。
 『ラバー・ボンデージ』は、性器の露出はない。純粋にフェティシズムとモデルの美を押し出したもの。しかし、この作品にはらばー・ボンデージプレイの本質が描写されている傑作だ。モデルの質も、ナターシャともうひとり、イヴ・エリスという有名なポルノスターのようで、非常に高い。一フェティシストとして、狂喜乱舞するほどに美しい映像が目白押し、興奮のシーンで満載なのだが、この作品には先程も述べたように、果たしてラバー・プレイとはどのようなものなのかを考える上で重要なヒントに満ちている。まとめると次のようになる。
◆完璧にフィットしたキャットスーツを着て、デザイン的に抜け目のない小物類もそろえる。
◆全身にオイルを塗ってラバーの光沢を最大にする
◆すべての参加者は、美の求道者なのだという高い意識を持ち、その実現に向け妥協しない
◆ボンデージギアを、パートナーに一つ一つ、ゆっくりとつけてもらう
◆基本的に、責める方、責められる方という役割があり、責める方が、拘束する。しかし、気持ちいいのはもちろん責められる、つまり拘束される方なのはいうまでもない
◆すべての動作はゆっくりと行う。ラバーで汗ビチョになり、不快になる。しかしゆっくり行うことで、独特の雰囲気と興奮(じれったさ)がもたらされる
◆SMと似ているが、ラバープレイとは皮膚に密着したラバーの拘束感を楽しむことが重要だ。時折、ボディーをさすったり、はたいたりすることで、ラバーに意識を向けさせれば興奮も高まる
◆いろいろな動作のバリエーションがあるが、まさにそれはこのビデオを見て参考にしてほしい。ただ着て突っ立ってたり、寝ているだけでは興ざめだ。次々といろんな動きを試すには、高い知性と忍耐力が要求される
 このように観てきたが、総括すれば、ラバーボンデージプレイとは、オナニーとかSMなどが目的なのではなく、それ自体が目的となりうる、プレイとして自立した行為体系なのである。性的なイメージを伴うが故に、「オナニー」という身も蓋もない卑俗な目的に矮小化されてしまう危険性をはらみながら、フェティシズムを思想の高みに昇華させようとするピーター・W・ツェルニヒの挑戦。我々はこれを応援してゆくことが、なによりも重要だ。

2001.9.21

 
 
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