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By the Numbers ウィル・ピッカー著

 金曜日の午後に届いた宅急便は、キャシーが心待ちにしていたものだった。3ヶ月前から、一週間おきに荷物が届くことになっていた。送り主はキャシーの恋人で友達のメリッサだ。若い女性カメラマランとしてちょっとばかり名が知られている。
 キャシーは若くてとても魅力的な女性だ。キャシーとはじめてあったとき、メリッサはそれまでキャシーがモデルをしたことがないと聞いて驚いたくらいだ。長身でグラマラスなキャシーの身長は175cm、スリーサイズは86、56、81cm。腰まである長い髪、ゾクッとするほどクールなグレーの目、ちょっとすねた感じの唇は適度に肉付けがよく、吸い付くようにとがっている。健康的に日焼けしていて端正な体つき。スラリと長い足、ピンと上を向いた乳首をいだく胸は人目を常にひいている。
 一方、カメラマンのメリッサも魅力的だとキャシーは思う。身長は小柄で160センチくらい、スリーサイズは81、51、81cm。キャシーは以前、メリッサにどうしてモデルをやったことがないのか尋ねた。するとメリッサ「モデルの仕事は短いし、私はいつも、カメラも後ろ側にいたいから」と言うのだった。
 メリッサは写真家として成功している。キャシーはメリッサがどのくらいカメラマンのキャリアで儲けたかを知る由もなかったけれども、自分の普段の仕事の一週間分のギャラを、一回の撮影のたびに支払ってくれることには感謝していた。
 メリッサが送ってくる荷物はいつも、キャシーが帰ってくると玄関先に置いてある。その中には、毎回次の写真撮影でキャシーが着ることになっている衣装が入っていた。普段は下着の撮影だったが、2週間前に行われた撮影は違っていた。そのとき、キャシーは黒のラバー(ラバー製の)ブラとパンティーを身につけ、さらに、革製の襟(首に巻く帯状の拘束具)、足首と手首両方には手錠がつけられた。「これじゃまるで動きがとれない。SMプレイみたい」。さすがにそのときはとまどったが、メリッサの熱心な説得に負けて、キャシーはその格好のまま十字架にくくりつけられてしまった。キャシーは完全に身動き取れなくなって、あらわな姿を親友の前にさらけ出して撮影されている自分の姿を想像すると、不安を隠せなかった。しかし、同時にキャシーはそのとき、ラバーの衣類に対するつよい執着の萌芽を持っていた。自分がつけてきたじゃこうの香りと、ラバーの臭いが混じり合った匂いは性的な興奮を高め、キャシーはラバーという不思議な素材に関心を抱いた。ラバーが体温で暖まり、汗ばむ皮膚を吸うかのようにまとわりつくのもたまらない悦びとなった。撮影が終わり、メリッサが拘束を解いてしまうのに失望すら覚える有様なのだ。
 撮影後、キャシーはメリッサに感想を言った。「本当に素晴らしかった」。するとメリッサは大喜びし、ラバーブラとパンティーをあげると言ってくれた。そして次の撮影はもっと楽しくなるとキャシーに約束した。彼女はもらったラバーブラとラバーパンティーを、洗濯するときをのぞいて普段着の下に四六時中身に着けた。キャシーはメリッサに、電話して「ラバー中毒になっちゃったみたいなの」と言った。
 今週の荷物はいままで彼女が受け取ってきたなかでもっとも大きかった。重さも20kgはあった。キャシーはドアを開けて箱を家の中に引きずり込んだ。帰ってくると日に日に蒸し暑くなっている室温が、夏はすぐそこまで来ていることを物語っている。エアコンは、昨晩から故障しているみたいで、まるで作動しない。留守電の再生ボタンを押すと「修理工は月曜までこられないそうよ」という大家の声が流れている。うんざり。
 キャシーは荷物を寝室に運びながら、何が入っているんだろうと思った。メリッサが迎えに来るまで、いつも十分な時間があった。準備に急ぐ必要はまったくなかった。キャシーは最初に、シャワーを浴びることにしている。ラバーブラとラバーパンティー以外のみに着けているものをすべて脱ぎ去り、バスルームへ入った。ラバーの表面を踊る水滴の動きを愉快に眺めながらシャワーを浴びる。シャワーなら、ラバーを簡単に脱げるし、その場で洗えるから便利だ。ラバーブラを脱ぐと、その下の乳首はすっかり固くなっていた。固く屹立した乳首を見るやいなや、熱い性欲のこもった息を吐いた。彼女は左手で胸をまさぐり、乳首をつまんだりかるくぶったりして、右手はラバーパンティーの奥深くに差し入れた。彼女のプッシーはラバーパンティーのなかでもうぐしょぐしょに濡れていた。指で割れ目を開き、秘部の内奥へと指を向かわせる。ラバーに触発された完璧なオーガズムを、今日も得ることが出来た。シャワーを浴び終わり、満足感に満たされる淫乱女・キャシーである。
 キャシーは体を拭いたあと、長い髪をポニーテールにして、大股で歩きながら寝室に戻った。注意深く箱を開け、中身を確かめる。箱の中にはいくつもの黒いビニール袋が入っている。それぞれに番号が書かれたタグがついており、いちばん上に彼女宛の封筒がある。中からメリッサからの手紙が出てきた。それによれば、箱の中身はすべてキャシーのために特注で作られたもので、撮影後も身に着けていてもいいと書いてあった。
 キャシーは大いに喜んで、無我夢中になった。箱のなかから、甘いラバーのにおいが立ちこめている。ビニールに入っている衣類はすべてラバーでできていることは間違いなかった。彼女はそれらを一刻も早くぜんぶ身に着けたいと思った。しかし、説明書きによれば、それぞれのビニール袋は付いているタグの番号順に身に着けなければならず、それぞれのアイテムには身に着ける前に読まなければならない取扱説明書があった。
 キャシーは1番目のビニール袋を取り出した。中には透明なラバーで作られた全頭マスクが入っていた。目と口の部分は穴が開いていた。2本の短いチューブが付いていたが、それは鼻の穴に差し込むためのものらしかった。あり、フードの後頭部には直径2.5センチもある太いチューブもつけられていた。幅12センチの襟のひだが首をビッチリと覆う。もう一つの箱には片方がカギ状になったプラスチックの短い棒と、光沢剤のボトル、それに指示書が入っていた。カギ付き棒はフードの穴から彼女のポニーテールを引っかけて外に出すためのもので、光沢剤は身に着けたすべてのラテックス製の衣服に塗りたくるように、と書いてあった。
 キャシーはラバーフードの首の部分を伸ばして頭からすっぽりとかぶった。しかしとてもきつくて、正確な位置に直すのにとても苦労した。ラバーの皺が出ないようにぴったり装着させて、鼻にチューブを差し込んだあと、すぐさま光沢剤を塗る作業に移った。それから、後頭部のチューブにフックを差し込んでポニーテールを引っ張り出した。彼女はこのような全頭マスクをかぶったことはかつてなかった。あまりにもぴったりとサイズが自分に合うので驚いた。ラバーには無駄な部分が全くなく、皮膚とラバーの間に空気が入るような部分は一カ所もないくらいにぴちぴち肌に張り付いている。
 第二の箱は最初の箱よりもずっと大きかった。キャシーが箱をひっくり返すと、中から美しく整形された透明ラバー製のキャットスーツが出てきた。そのスーツは、胸から性器の割れ目に至るまで、彼女の体のあらゆる細部まで正確に複写していた。袖の先はグローブになっていて、脚にいたっては足指一本一本までモールド(成形)されていた。股の部分に細い裂け目、乳首に小さな穴が開いているものの、ジッパーはどこにも見あたらない。いったいどうやってこのスーツを着ればいいんだろうと考えていると、袋の中に説明書があるのを見つけた。スーツの首の部分が伸びて、そこから体を入れられると書いてあった。
 キャットスーツを着るプロセスが好きだった。もちろん、身体にぴったり合うように作られているから、とてもきつく、装着するのは多いに苦労する。けれども、着ているそばから興奮する自分を楽しむことが出来る。キャットスーツの中の空気を丹念に押し出して、しわがほとんど寄らないようにした。部屋のエアコンは故障している。彼女の皮膚の上には、すでに汗の層ができていた。その汗のせいで、ラバーは皮膚に接着剤で固定されたかのように完全に張り付いてしまった。ついに、キャシーは手を袖の先のグローブまで通し、全頭マスクの首の部分を覆う襟と、キャットスーツの首回りを閉じて完全密閉状態になった。いまや彼女は暖かいラバーの包皮に全身を包まれている。それは二番目の皮膚のように全身の表面を薄く覆って、てらてらと妖しく光を反射している。キャシーはキャットスーツが彼女の体にもたらす感覚に、すっかりとりこになっていた。ラバースーツが彼女の胸を上に押し上げて、乳首は小さな穴から飛び出ている。足とヒップのラインが強調されている様もとてつもなくセクシーだ。彼女の強い興奮のせいで奔放なプッシーははやくもびしょぬれ状態になっている。肛門の少し上、尾てい骨近くまである股の割れ目から、いやらしくプッシーが飛び出している。彼女は光沢剤を新しい皮膚の上から塗った。光沢剤が乾くときに少しひんやりとした感覚が伝わる。ベッドルームの鏡に全身を映してみると、まるで全身をラッカーに漬けたようにテカテカ光っていた。全身が覆われているにもかかわらず、ラバー自体は透明なので依然として裸の自分を感じた。
 箱のところに戻り、次の、3番目のビニール袋に着手する。中には黒光りするラバーブラが入っている。以前メリッサからもらったものとほとんど同じだったが、今度のは内部にラバーの固い突起物がついている。その突起はちょうどキャシーの乳首に当たるような位置に付いていたので、ブラを身に着けたあと、キャシーの乳首は固く勃起しっぱなしだった。
 4番目の袋には股の内側に2本のペニス状のバイブが付いた黒のラバーパンティーが入っていた。キャシーは自分でもいくつかディルドー(ペニス型のバイブ)を持っていたが、それとは比較にならないほど大きかった。ラバーパンティーの内側に生えているそれは、長さが15センチ、太いところでは直径10センチ、細いところでは付け根の部分が4センチほどもある、亀頭というよりもキノコ状をしている。 巨大なペニスの付いたパンティーをはくのは一層困難な仕事だった。プッシーに差し込むディルドーには小さな穴が開いていて、そこにラバーのチューブを通すようになっている。箱の中には潤滑オイルと別の説明書が入っていた。説明書には、パンティーをはいているあいだ、彼女の下半身の自由のいっさいが奪われると記してあった。彼女はひざの上までパンティーを引っ張り上げると、2本のディルドーに大量の潤滑剤を塗った。「こんな巨大なものを、アナルとプッシーに入れるなんて、最高」。ゆっくり仰向けになり、ディルドーの先をプッシーとアナルそれぞれの穴の入り口に近づけた。彼女はゆっくり深呼吸をしながら、ディルドーを中に挿入しはじめた。円錐型のディルドーは中へ差し込むほど、入り口を広げなければならない。巨大なものが挿入される、強烈な異物感に、うめき声を漏らす。プッシーは巨大なちん入物についに降伏した。ディルドーのいちばん太い部分を飲み込むと、プッシーの入り口の筋肉はすみやかに収縮し、ディルドーの細い付け根の部分を締めた。中には巨大なディルドーが挿入された。
 ディルドーの大きさを調節するための小さなポンプが、パンティーの外に出ている。ポンプで空気を送り込むと、中でディルドーは大きくなる。限界までふくらませると、強烈な異物感から彼女は激しくうめき声をもらした。異物挿入に必死に抵抗する肛門の筋肉を必死に緩めながら、アナルにディルドーの先を当ててゆっくり押してみる。しばらくしてこれも入った。巨大なディルドーを入れようとする努力と、体内に今もたらされている巨大な異物感によって、キャシーの全感覚は下半身に集中した。そして程なくして、猛烈な性的興奮の最高潮がけいれんとともに彼女を襲った。
「あ、ああ、ひイ。イクーッ!ウグ、あっ、あっ、いいー。きもち、いいー」
 キャシーは、猛烈な絶頂感から果てると、ゆっくり立ち上がって、パンティーのウエストバンドをお尻まで引っ張り上げた。パンティーが完全にキャットスーツの狭いスリットを密閉した。興奮で脚が小刻みに震える。室内のちょっとした段差を越えるために、またをちょっと動かすだけで、アナルとプッシーに入れられた極太ディルドーが猛烈な感覚を股間にもたらす。キャシーは光沢剤を手にとって、ラバーブラの内側に付いた突起が胸に当たる感触を味わいながら、ラバーを磨いた。
 5番目の袋を見ながら、彼女はラバー服のすばらしさを、いったいどれほどの人が感じることができるのかしらと思った。彼女のフェティッシュな欲求は彼女の人生に大きなインパクトを与えつつあったが、他の人はどうなのだろう。クロゼットに入ったたくさんのラバーアイテムを、今後、彼女は何度も何度も繰り返し着るだろう。5番の袋の中には、肩まである長さの黒いロングラバーグローブが入っていた。透明ラバーですでに彼女の腕は覆われていたが、その上からこのグローブを身に着けることで、二重にラバーをまとうわけだ。そして7番目の箱には黒のラバーストッキングとガーターが入っていて、これも着けるとラバーの層が二重に彼女の脚を包むことになる。それぞれのアイテムを光沢剤で徹底的に光らせたあと、彼女は鏡の前に立って鏡の中の自分に淫靡(いんび)な笑いを投げかけた。
 黒いブラとストッキングは、透明ラバーの肌の部分と美しいコントラストを作りだした。全身が一分の隙もなくラバーが肌にぴったりと張り付いている感覚、緊束感を感じる。ラバーのすべすべした、濡れたように見える表面と、皮膚とラバーのあいだの汗の感覚、するどく体内に突き刺さったラバーディルドーの感覚は、まるで彼女の体がまるごとひとつのプッシーに変身したかのようなものすごい性的興奮をもたらした。
 8番目の袋には、別のキャットスーツが入っていた。色は黒で、厚めの黒光りするラバー製。手首と足首にはジッパーが付いている。首のところに全頭マスクが付いていて、目と鼻の穴のところに穴が開いている。口には小さなチューブが付いていて、くわえて息をするようになっている。ポニーテールが出せるように頭のてっぺんにも穴が開いている。そして首の後ろから背中にかけてもジッパーが付いている。キャシーはキャットスーツをひっくり返して、フードの中をのぞいてみた。すると、彼女の歯形にぴったり合うように成形されたU字型のマウスピースが付いたギャグ(猿ぐつわ)が内側に取り付けてある。
 フードの外側、口の部分から出ているチューブは、このギャグの真ん中を通って彼女の体内に空気を送り込む役割を果たしている。彼女は息を吸うときは、このチューブを通じて吸うしかなくなるわけだ。ギャグは、のど奥までしっかり入れないと息ができないような作りだった。ラバーキャットスーツの太股と上腕にはそれぞれ丸い穴が開いた金属の留め金が付いている。彼女はさっそく、後ろのジッパーに沿って体をキャットスーツの中に入れはじめた。すでにラバーで覆われているので、厚いラバーはほとんど伸びない。脚がキャットスーツの足の先まで入ったので、足首の後ろのジッパーを締め上げた。スーツを太股まで引っ張り上げたときに、股の部分に小さな穴が開いていることに気が付いた。それはパンティーから出ている例のディルドーの大きさを調整するためのポンプを外へ出すためのものだった。
 ラバースーツをお尻までたくし上げ、腰骨を通すべくエイっと引っ張る。キャットスーツは完璧に彼女の身体通りのサイズで作られているらしかった。身体の凹凸を通るときはとにかくきつかったが、難関を通ってしまうと本当にすべての部位が隙間なくぴったり合う。
 袖に腕を滑り込ませて、手首のジッパーを勢いよく閉めると、あとはフードだけが残った。キャシーは首を前に傾けて、広げたフードに頭を突っ込んだ。正しい位置にフードを調整すると、固い猿ぐつわが彼女の唇に当たった。口を開けて、ラバーフードを引っ張ると猿ぐつわがのど近くまでズボッと入ってきた。歯がギャグについているマウスピースにぴたりと固定され、顎はまったく動かなくなった。少しでも動かそうとすると、厚いラバーがよけいに口を締め付けるのだ。こうして彼女は自由に話すことも出来なくなった。フックを使って2番目のフードの穴からポニーテールを引っ張り出し、手を後ろに回して背中のジッパーを上まで閉じた。ジッパーがひとつひとつ閉まるごとに、全身のラバーが彼女の体を一層きつく包み込む。彼女の体が圧縮されてスーツに包まれゆくとともに、乳首に当たる突起と股のディルドーが彼女に劣情を催させる。彼女はキツさとモノを言えない不自由さから、「アフ、フン、ギー」などと声にならない声を漏らした。それでもとても興奮してしまっていた。さらに光沢剤を塗る。スーツは胸と肋骨にも容赦なく食い込んでくるほどきついので、息をするにも一苦労だ。
 9番目の箱は小さいが重かった。中には小さな南京錠と、また別の説明書が入っていた。説明書には、背中のジッパーと首の後ろの付け根に付いている金属の留め金を、いちばん小さな南京錠で固定しろと書いてあった。
 キャシーは説明書の説明が意図することにとまどった。いったん南京錠を付けてしまうと、もちろん自由に動けはするものの、唯一のカギを持っているメリッサの到着まで着脱できなくなってしまう。物理的に付加逆な状態がますます、興奮を高め、幾重にも自らまとったラバーコスチュームの中で自分がどうなってしまうのかと思うと怖い気がした。
 しかしすぐにこの考えは消えてしまった。彼女自身、ラバーへの欲望のせいで冷静な思考ができないほどに淫れていたし、なによりメリッサを喜ばせたかった。ゆっくりと後ろに手を伸ばして、ジッパーのタブを探し当てて、注意深く首の付け根の留め金に南京錠をかけ、かちっと音がするまで押した。もう、後戻りできなくなった。自分一人では、絶対に脱げないラバースーツに、彼女は全身を包まれ、そして犯されている。
 そのとき、突然ドアの呼び鈴が室内に鳴り響いた。キャシーはビクッと飛び上がった。「もうメリッサが来てしまったんだわ。つい着るのに熱中しちゃって、時間の感覚を失っていたようね」
 まだ室内には開けていない箱がいくつかあった。彼女はドアに走り出したが、すぐにプッシーとアナルそれぞれに挿入されたディルドーが強烈に自己主張したので、よちよち歩きになってしまった。ドアをあけてみて仰天した。立っていたのはメリッサではなく、エアコンの修理にきた電気工事の人だった。彼は2メートル近い身長の、茶色い目と茶髪の男だった。
 彼は厚くて大きな胸板を持つたくましいプロポーションの持ち主だった。肩幅は広く、ウエストは締まっている。彼はキャシーを見て驚きのあまり赤面し、呆然と口を開けたまま立ちつくしていた。突然現れた男に想像を絶する動揺を与えてしまったと、キャシーも焦る。最初はキャシーも身構えて自意識過剰だったが、彼のジーンズの股の部分が大きく盛り上がるのを見逃さなかった。私のこの姿に、勃起するなんて───。焦りが消えてきた。彼はたったいま、突如目の前に現れたラバーガールに明らかに欲情していた。
 彼は我に帰って、彼女の服装については一言も触れず、こういった。
「別件がキャンセルになり、たまたまあなたの家の前を通ったので、立ち寄ることにしたんです」
 エアコンはどこにあるのかと尋ねるので、彼女は戸外の室外機の場所を指差した。彼は持ってきた道具を持ち上げて出ていったが、まだ顔は赤いままだった。
 キャシーは寝室に戻り、次の箱に取りかかった。メリッサはまだ来ないけれども、もうまもなく来るだろう。それまでに残りの袋の中身を全部装着してしまおう。10番目の袋からは鋼鉄製のボーンが縫い込まれたラバー・コルセットが出てきた。ウエストの部分が極端にえぐれている。これはきつそうだ。胸の部分には金属のリングが付いている。うしろで編み上げるように紐が通っている。そして四つの掛け金が付いていて、それぞれを紐で結んでロックできるようになっている。キャシーは紐を緩めて、ウエストのまわりにコルセットを着けて上に引き上げた。コルセットは腰から胸までをカバーする大きめのものだった。下側は股の数センチ上まである。後ろの紐を締めようとしたが、何しろ二重にラバー・グローブをはめている。紐をつかむことにも苦労する。
 ドアベルが再び鳴った。修理人の彼がドアの外に立っていて、修理に出さなければならない部品があるから来週また来ると説明した。キャシーはわかったと、口が利けないのでうなずいた。彼がきびすを返して去ろうとしたとき、キャシーは彼の肩をつかんで、コルセットの後ろ側を指差した。彼はすぐに彼女の言おうとしていることを理解し、手伝いましょうかといった。キャシーは再びコクッとうなずいて意思を示した。彼を部屋の中に手を引いて導き入れると、彼はさっそく紐を結びはじめた。彼がコルセットの穴に紐を一本通してギュッと引っ張るたびに、コルセットに埋め込まれた鋼が彼女の体を、痛みを覚えるほどきつく圧迫した。コルセットの上側には、胸を収める半円形の金属のカップが付いていて、それがラバーブラの内側にある突起を押して、乳首をますます強く押し込む。コルセットを着けたせいで、彼女の呼吸はますます短くなってきた。胸郭が狭くさせられたおかげで、一度にたくさんの空気をもはや吸うことができなくなっていた。息切れが激しくなってきたがどうしようもない。ギャグに接続された小さな穴から、ヒュー、ヒューとあからさまな呼吸音が切実な響きとともに漏れ出る。
 修理工は紐を締め上げながら、彼女に話しかけた。名前はビル。ラバーが好きなのはよく分かる、等と。しかしキャシーが口を指して、猿ぐつわを付けているから話せないと言うと、彼は合点したようにほほえんだ。紐を締め終えると、彼は、コルセットのストラップはどうすると尋ねたので、彼女は指を上げてそのまま待つように彼に示し、自分は寝室へ行って南京錠と、潤滑剤の残りを探した。リビングに戻って、彼に南京錠を渡すと、彼は注意深くストラップとコルセットを施錠した。その間に、彼女は彼のパンツの股のふくらみをつかんだ。彼は彼女のラバーで覆われたボディを愛撫して、すぐにこたえてくれた。キャシーはもうかなりムラムラきていた。コルセットを着ける手伝いをしてくれたお礼をしなきゃと思って、彼の前に注意深く跪いた。コルセットのせいで上体はまったく曲げることができなくなっていた。彼はズボンのファスナーを下ろしてパンツを脱ぎ、足元に落とした。パンツの下に彼が身につけているものを見て彼女は驚いた。なんと黒のラバーパンツだったのだ。股の部分に開いた穴から、屹立したペニスが怒濤のように脈打ってそびえていた。
 かれの亀頭を金属のピアスが貫いて、それにリングの輪が付いていた。彼女はそんなものを見たこともなかった。もしこのペニスが私の中に入ってきたらどんな感じがするだろうと思ったけれども、今はそれを試すことはできない。ペニスに潤滑剤を塗って、ラバーグローブで全体をなで回しはじめる。手を前後に動かすごとに、そっと手を締めたり愛撫したりする。ピアスリングに注意しながらコックをさする。彼のラバーショーツにはペニスの穴の後ろにもう一つ穴があり、そこから肛門が見えていた。そこで、潤滑剤をよく塗ったラバーグローブをはめた自分の指の一本を、アナルにゆっくりと差し込みながら、もう片方の手でペニスをしごくスピードを速める。アナルに指を抜き差しするのと同じ早さでコックを上下にさすると、彼の体が震えてペニスが爆発した。厚くネットリした液が、彼女のラバー全頭マスクやスーツの上に飛び散った。
 キャシーはバスルームへ行って、バスタオルを持ってきて彼にわたした。自分もボディに付いた白い液体を拭き取った。彼は今週中にまた来ると言った。彼女は会釈して今日のお礼の気持ちを表現し、彼を見送った。彼がまた来るときは、何か特別な計画を立てよう、そう決意した。
「大変、時間がないわ」あわてて寝室に戻り、11番目の袋を開けた。今度出てきたのはミラーレンズが付いた、本格的なガス全頭マスクだ。5つの留め金が付いていて、それぞれを後ろ側のパネルに南京錠で留める仕様だった。後頭部にはポニーテールを出すための穴も開いていた。キャシーは顔の正面に全頭マスクを持っていき、ポニーテールを穴から外にくぐらせて、前と後ろを留めるストラップを締め、南京錠をかけた。全頭ガスマスクを着けるのは生まれてはじめてだった。それはまったく新しい、異常な体験だった。
 レンズを通じて外を見ながら、自分の吐く息がバルブを通るときに出すシューという音を聞いていると、まるで自分がエイリアンになって、地球を探索している気分になってきた。メリッサは、本当に考え抜いてコスチュームを選んでいるんだと思った。ひとつひとつのアイテムを身に着けるごとに、外の世界を感じる感覚が遮断され、より一層、身体の内部へと神経がとぎすまされていく。
 12番目の袋には、黒光りする分厚い防水長靴が入っていた。この長靴は魚屋が作業をするときにはくのとまるで変わらない、プロ仕様の腰近くまであるものだった。ルーズフィットタイプのラバー長靴は容易に脚が通って、股近くまで引っ張り上げられた。小さな穴が両サイドに付いていて、キャットスーツのももについている留め金に南京錠で固定した。
 13番目の袋には黒光りする厚手のグローブが入っていた。これも留め金で、上腕部の側面に付いている留め金と接続できた。
 最後の袋から、これも厚手の黒光りするラバージャンプスーツを取り出した。背中には首からジッパーが付いていて、股を通って前側にきて腰まで開くようになっている。ウエスト部分には、閉じたジッパーのつまみを固定するための留め金が付いている。そこでキャシーは気が付いた。これを着る前に、トイレに行かないといけない。きっとこれを着て留めてジッパーを固定したら、用足しもできなくなると思った。すでにキャシーは尿意を感じていた。腹は尿でふくれていたが、ディルドーが入っているので、リラックスして排尿するのがなかなかできない。
 数分後ようやく排尿すると、あたたかい液体がチューブを通って出てきた。ベッドルームへ戻る。そしてもう一度、ジャンプスーツを着込む仕事に入った。ジャンプスーツは、両手両足首以外はルーズフィットタイプだった。背中のジッパーをはずして体を滑り込ませる。もう一度ジッパーを閉めて、背中、股、腰まで、完全に閉じる。最後にひとつだけ残っていた南京錠で、ジッパーとジャンプスーツのディルドーを固定し、開かないようにする。鏡の前に立ってみて、すっかり変態ラバー生物と化している自分に対面した。すでにこの幾重にも覆われたラバーウエアのなかにいる人間が、男なのか、女なのか、判別できない有様だった。すでに場所によっては、彼女の皮膚は5重ものラバーの層に覆われている。いちばん厚いところで、2センチ以上にはなっていた。体は、何層ものラバーで密閉された結果、サウナ状態になり、蒸れた。彼女が唯一外界とコンタクトできる部分は、ポニーテールの穴と、息をするごとに全頭マスクのバルブを通じて入ってくる外気だけだった。
 彼女の股に差し込まれたディルドーは、プッシーからとめどなくあふれ出てくる愛液と、汗とで、びちょびちょだった。脚や腕はギチギチでうまく動かすことができない。体重計に乗ってみると、スリムな体型のキャシーに、25キログラムもの重さが加わっていることが分かったが、もはや驚くに値しなかった。これだけ着ればそのくらいになるのも当然だった。ラバーを装着する試練からの疲れで、キャシーはベッドに横になりしばらく休憩していたが、そのまま寝入ってしまった。
 目が覚めると、外は暗くなっていた。あれから2時間が経っていた。カメラマンのメリッサがもう来てしまったに違いない、でも寝ていたからドアベルを聞き漏らしたんだわ。そのとき、さっきは見過ごしていた説明書を、空っぽの箱の中から見つけた。ラバーグローブでごわごわの手で、封筒を拾ってなかの紙を出すのに、非常に苦労した。中に書いてある説明を読んで、キャシーは一瞬にしてパニックに陥った。「準備は翌朝9時までにしておいて下さい。そのころ迎えに行きます」 このラバーの分厚いまゆの中で、一晩を過ごさなければならないなんて! 口にはマウスピース付きのギャグをはめているから、電話することもできない。もちろん南京錠でフードは留めてあるから外せない。それにガス全頭マスクだって。そういえば最初の説明書にはこう書いてあった。「はじめに、すべての説明書きを呼んで、それから着始めてください」
 メリッサはトリックを仕掛けたのだった。いつも迎えに来るのは金曜日の夜だった。今回は、キャシーの興奮を数えながら、楽しんでいるんだろう。メリッサの思うままだわ。そう思いながら、キャシーは再び横になった。一挙手一投足、ディルドーと乳首の突起が彼女を刺激する。でも、そんなに悪い夜でもないわね、キャシーはそう思いながら、再び絶頂感を求めて意識を股間に集中した。


──いかがでしたか? ヘヴィー・ラバー・マガジンNo.6のP78に掲載された「By the Numbers」(ウィル・ピッカー著)の全訳でした。ちょっと潤色してますが、皆さんはこういうボンデージにどんな感想をお持ちになられましたか。蛇足ですが、ぜひこの号をお買い求めになり、英文と照らして読んでみてください。辞書を引き引き、読んでみると、まるで違った感興がわくことでしょう。これに限らず、マーキス社の雑誌に掲載されている小説はいいものが多い気がします。今後も機会があれば訳します。

2002.6.25

 
 
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