フェティシズムと光
週刊ポスト02.7.12号の表紙の裏に、トヨタのカーナビのCMが出ている。モデルは、シンプルなデザインの黒のキャットスーツを着せられている。こちらを指さしているポーズで、もう片方の手は緩やかに後ろに伸ばしている。素材はウレタンコーティングのように見える。この素材特有の、鏡のように艶やかな表面には、身体の寸法にぴったりに作られたと思われる、ボディ部分など主立った部分に皺がほとんどない。
もっとも、関節の周辺には駆動部分に沿った皺が寄っており、ある程度のきつさで素材が身体に食い込んでいることをうかがわせるる。
プロのタレントとフェティッシュ・アイテムの組み合わせはメジャーなメディアに突発的に掲載され、あっという間に消費されて消えていくので、キャッチすることは非常に困難だ。たいていスポンサーありの広告出稿だ(または雑誌企画の撮り下ろし)。
こうした写真に見応えがあるのは、とりもなおさず、当代一流のフォトグラファーが腕によりをかけてフェティッシュ・アイテムを撮り下ろしているからだ。大企業というパトロンがフォトグラファーのイメージの冒険に出資している構図は、大航海時代の王と冒険家の関係と何ら変わりはない。もっとも偉大な成果物が、そこから生まれ、歴史を作る。
プロカメラマンがプロである所以は、その照明(ライティング)の技術の冴えにあると信じる私としては、フェティッシュな衣装をいかにクールに、インパクトをもって撮るかもまた、光のつかい方の正否にかかっていると思っている。
フェティシズムの魅力は、外側から鑑賞するときに、素材が放つ独特の光だ。その光をうまく生かさないと、高いアイテムを衣装に用意し、すばらしいモデルに着せてもダメである。
今回入荷している商品「ブラックラバードールズ写真集」は、マーキス社主ピーターが撮り下ろしている。残念ながら、最高のモデル、最高のラバースーツなのに、光の工夫が足りないために、平板なできあがりとなっている。
広告写真の世界で見られるような、エロティックな商品撮影や意表を突く人物ライティングのテクニックをピーターにも拾得してもらいたいと願うのは私だけではないだろう。
週刊ポスト02.7.12号の表紙の裏から「TOYOTA CAR NAVIGATION」
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