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オリジナルキャットスーツ開発秘話

 2002年、日本のフェティシスト、とりわけラバーキャットスーツ姿の女性フェティシストは悶々とした日々を送っていた。
 長い間の自覚と見聞、経験によって、自分がキャットスーツ姿の女性を見ると性的に興奮すること、そして自分もそういう格好をしてみたいという願いを持つ男性たち。もちろん、アベンジャーズ、スパイダーマン、キャットウーマン、X-MEN等のアメコミのヒーロー・ヒロイン像にあこがれて、少しでビジュアルを近づけたいと願う女性たちも、いた。
 Alt-fetish.comのマネジメントチームは、サイトのアンケートフォームから寄せられるフェティシストたちの生の声に日常的に接するなかで、「キャットスーツ命」の熱い思いを痛いほど感じていた。もちろん筆者は自分でラバーのキャットスーツを着たことがあり、そのすばらしい感覚を知っているだけに、まだ着たことのないフェティシストたちのことを思うと、何とかしなければならないという思いはなおのこと切実だった。自社でオリジナルのスーツを開発し、みんなの期待に応えたい、そういう思いを持つのも当然の成り行きだった。
 そこで、Alt-fetish.comはサイト上で純国産のキャットスーツを売ることを重要なサービスとして位置づけることにした。これまでは海外の雑誌・ビデオを仕入れて販売するだけだったので、はじめてのことだし、未知のリスクへの挑戦となる。スタッフは緊張しながら課題に取り組むことになった。
 まず、商品を開発するにあたり、盛り込みたいテーマを3つに絞った。価格と納期、サイズ、素材(品質)だ。
 現状、国内でキャットスーツを入手するには、大人のおもちゃも扱うアダルトランジェリーショップでまれに売っている、いつ輸入したかもわからない安っぽいエナメル(ビニール)製のものか、海外サイトでクレジットカード番号を打ち込んで、直接輸入するほかなかった。
 国内の市場ではどんなのがあるだろう。その優れた機能でyahooと提携するほどに成長したサーチエンジン、googleで「キャットスーツ」と入れると、五反田のskinfit、ショップキョウエイを運営する共栄サービス、京都の通販サイトRUBBER LATEX WEARが上位にでてくる。共栄で実際に買ったことがあるが、値段も合理的で長く営業しているところを見ると、多くの顧客からの信頼を得ているのだろう。また、後者の通販サイトは買ったことはないが決して割高とは言えず、掲示板へのレスポンスも早くて誠意が感じられそうだ。googleで上にでるから安心とは言えないが、この二つを標準的な国内キャットスーツの入手先と言ってもいいだろう。
 二件ともPVC(ポリ塩化ビニール)のキャットスーツは数千円から1万円程度の安い輸入品だ。問題はこの素材である。実際にさわってみて、着てみないとどんなものか分からない。サイズもSとM程度の表示があるのみで、実際に自分の体に合うのはどれなのかが分からない。
 つまり国内で、比較的まともな店でさえ、こうした状況なのだ。ウェブサイトだけで、ハードなプレイにも使え、自分の身体にぴったりかどうかが判りやすいサイトはないに等しいのだ。
 では、海外に目を転じてみるとどうか。まず英語という壁が立ちはだかる。仮に英語はクリアしたとしても、クレジットカードの番号を打ち込んで決済するにはそれなりに勇気がいるものだ。
 注文時のハードルをクリアしても、届いたものが微妙にサイズが合わないなどした日には目も当てられない。
 キャットスーツ通販事情を改善するには、わたしたちが自ら「キャットスーツ市場」を作るしかない──。市場を調べていくうちに、私たちはこう誓わざるを得ないところにいることに気づいた。
 短納期で分かりやすいサイズ展開、高品質。これらを両立させるには国産でなければならない。そこで私たちは、極秘裏にある工房に出向いた。
「Alt-fetish.comという日本のフェティシストのための良心的な通販サイトをやっている。要望が多い、フェティシストのための、プレイに耐えうる最良のキャットスーツを作ってほしい」
 私たちの要望に、デザインを担当する経営者は怪しそうな目で私をみつめた。すぐ横に座って私たちのやりとりを聞いていた、たったひとりの専属制作スタッフをちらりと見た。彼女が、針仕事を一手に引き受けているのだった。経営者は言った。
「在庫はしない方がいい。完全受注生産なら、引き受けられる」
 在庫は私たちにとっても、また担当スタッフにとっても負担になる。私たちは在庫を抱えれば売れ残りのリスクが生じる。
 ただし、在庫品なら「通常48時間以内に発送」をうたう私たちには、納品まで10日前後という条件の受注生産はネガティブに感じられた。しかし、制作部門を持たない私たちは彼らの協力なしではオリジナルキャットスーツなどあり得ない話であり、何もキャットスーツ専業でやっているわけではない工房の負担を考えれば、彼の言うとおりだった。私たちは瞬時に返事をした。
「よろしくお願いします」
 こうして、私たちは、ラバーではない特殊な素材(生地)を、小さな工房でその都度作る受注生産方式という仕組みを作り出した。広告や店舗を持たないので、価格を安くできることが可能だ。もちろん、PVC(エナメル)製のスーツを海外から輸入して、一万円前後で売っているところもあるが、そこまで安くはできない。こうした商品は安かろう悪かろうでは意味がない。なにより売っているのは商品というものではなく、顧客の満足だからだ。それとてあまり高くしたのでは、海外からゴムのラバーキャットを買うのに劣ってしまう。ゴムのオーダーメードよりは安くなければ市場への参入の意味がない。そこで工房と当社のぎりぎりの採算点を勘案し、スタート価格は税・送料込みで3万円を切る設定にした。製品は受注から発送まで10日以内にできるように工房にお願いしている(繁忙期・年末年始・お盆・GWはそれ以上時間がかかる)。価格と納期という最初の課題は、こうして解決を見たのである。
 次にサイズだが、適度な拘束は必須である。かといってキツすぎると着ることが出来ないし、ゆるすぎると興ざめだ。身体に寸分違わずフィットするというのはオーダーメードではないので、できない。完全受注=オーダーメードではない。オーダーメードは必然的に割高になるし、10日納品は無理だ。だが、身体にぴったり合うものを安く手に入れたいという顧客の切実な声が届いている。そこで、千差万別の顧客の体型に出きるだけ合わせるため、わたしたちは、入手できる素材のなかでもっとも伸縮性の高いものを用意した。この素材であれば、ラバーが持つ、全身の皮膚に程良い拘束感、包まれているという圧迫感を与えることが出来る。サイズはS〜Lの3サイズをそろえた。
 このサイズ展開は、性別・身長別になっている。基本的に女性用のS(身長150センチ台)とM(身長160・170センチ台)、そして男性向けに、上半身をゆったりした作りにしたL(身長160〜175)である。
 今のところ、身長が176センチ以上の男性向けの商品はないが、要望次第ではラインナップに加えたい。
 最後に素材(品質)の問題について。これは、サイズのところでも触れたとおり、できるだけ多くの顧客の体型に対応できるよう、きわめて伸縮特性のいい素材を厳選して使用することにした。ナイロンにポリウレタンコーティングを施したもので、内側の触り心地はちょうどジャージやスポーツウェアのそれに近い。外側はテカテカに光る。この光沢はラバーに光沢剤を吹き付けたものと同じかそれ以上に高い反射率を持ち、なおかつ簡単である。スプレーしたりしない分、むしろ健康的で安全といえるだろう。
 作りは非常に小さめで、サイズチャートに、生地の実寸を記載してある。この数字は顧客のサイズではなくあくまで製品の大きさであり、ここから、伸びる場所(胴回り、ウエスト、バストなど、ふといところ)では20センチ程度伸びる。主だったところ、つまりここを通らなければ着られない部分の、最大(伸び)寸法を併記してある。実寸を小さめにしたのは、着るときに各部分が伸びて突っ張ることで、身体に密着するボンデージの味わいと光沢感を演出するためである。後述するが、必ず自分の体のサイズと、商品の大きさを確認し、着られることを承知の上で注文していただきたい。
 キャットスーツはパーティーイベントにはもちろんのこと、プレイにも使用するべきスーツだ。セックスマシーンになるためにこのスーツを着る重要な変身アイテム、非日常世界への入り口である。そのため、股の部分には性器と肛門まで露出できる十分な広さの開口部を設け、ジッパーで開閉できる仕様とした。このジッパーは約30センチの長さがあり、前からと後ろからの両方から開けられる。素肌に密着させてきたときに、敏感な性器だけが外気に触れる感覚、この感覚ほど人を淫靡にする者はないのではなかろうか? 特に、フェティシストにとっては、ジッパーを開ける瞬間は至福のときである。
 サイズがきつめに作ってあるため、着るのに苦労する。最初の難関は腰(ウエスト)部分だろう。おへそあたりのジッパーの分かれ目が千切れるんじゃないかというくらいにキツキツだ(実際に千切れないために、必ず上限寸法を確認してほしい)。そこを通過したあとに来るのがいちばんの難関、肩の部分だ。片腕を通したあとにもう片腕を通すのが非常に難しい。素材をできるだけ上に、それこそつま先から少しずつ少しずつ、上へ上へと生地を伸ばしてほしい。上へ余裕部分をすべて寄せて、生地の余裕を集約させることで、何とか着ることができる。そもそも前ジッパーは、後ろジッパーにくらべて装着難易度が高いのだが、着終わったあとのフィット感は格別だ。またデザイン的にも、前ジッパーのほうがおしゃれである。
 価格と納期・サイズ・品質。こうしてできあがったキャットスーツは、理想のボンデージ状態をさまざまな体型の顧客にたった3サイズだけで対応しようとするため、とてもデリケートなものとなった。
 商品の性質上、自分の体のサイズと、このキャットスーツの大きさがイメージできる人にしか売りたくないのが本音である。そのため、あなたがもし、自分の体のサイズについてあやふやだったり、まったく測ったことがないのであれば、ぜひは買って欲しい。私たちは、そのために無料で採寸メジャーをプレゼントしている。サイトのアンケートフォームの備考欄に書けば無料でメジャーを送るので、ぜひ取り寄せてみて欲しい。
 キャットスーツから広がる無限の快楽の世界への扉は、Alt-fetish.comが開く。さあ今すぐ、採寸キットを請求しよう。

2002.8.20

 
 
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